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  • 2024.02.28

ナチスによる盗品か。エゴン・シーレ作品の押収令状に、シカゴ美術館は反発

エゴン・シーレ作品がホロコーストで殺害されたユダヤ人美術品コレクターから略奪されたとして、マンハッタン地方検事局が押収令状をシカゴ美術館に対して発行した。しかし、美術館側は親族によって売却され、正当な手段で入手したと主張している。

ニューヨーク当局によって押収令状が発されたエゴン・シーレの《Russian War Prisoner》(1916年)。 Courtesy of the Art Institute of Chicago

ニューヨーク当局は2月下旬、エゴン・シーレ作品の押収令状をシカゴ美術館に対して発した。古美術品の不正取引を専門に取り締まるマンハッタン地方検事局の職員は、ナチスによる略奪美術品に関する法的調査の一環として、シーレの《Russian War Prisoner》(1916年)がシカゴ美術館に収蔵された経緯と、その販売履歴を調査した結果、この作品は盗品であると主張している。

《Russian War Prisoner》には、現在125万ドル(約1億9000万円)の価値があると返還命令には記されている。

この作品の返還命令は、ユダヤ系オーストリア人のアートコレクターで喜劇俳優だったフリッツ・グリュンバウムの相続人たちが起こした最新の訴訟だ。彼の遺族は、グリュンバウムが1938年に投獄され、ナチス政権に資産を放棄させられる前に、グリュンバウムがコレクションしていた80点の作品を取り戻そうとしている。グリュンバウムは、1941年にドイツのダッハウ強制収容所で殺害された。

81点のシーレの作品を含むグリュンバウムのコレクションは、彼の死後、美術商の間で流通し、ヨーロッパ中の美術館に収蔵された。コレクターの死後に作品が販売された記録は1956年までさかのぼる。スイスのアートディーラー、エバーハルト・コーンフェルドがグリュンバウムの親族であるマチルド・ルカーチ=ヘルツルから63点の作品を譲り受け、委託販売に出したのだ。

グリュンバウムの遺族らは、2023年8月に100歳で死去したコーンフェルドとルカーチ=ヘルツルとの取引が合法だったか否か、とくに1990年代後半に二人の間で行われた取引について疑いを抱いている。マンハッタン地方検事局は、グリュンバウムのコレクションの行方に関する捜査を2022年12月から開始し、それ以来、さまざまな美術館や個人コレクションからシーレの作品を10点押収している。そのうちの7点は、2023年9月に返還された。

しかし《Russian War Prisoner》を巡っては、遺族らがニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に民事訴訟を起こしたものの、作品の返還には至らなかった。シカゴ美術館は遺族側の主張に対して連邦裁判所で争い、判事は美術館側に有利な判決を2023年11月に下している。

その10年以上前の2011年、マンハッタンの連邦裁判所はグリュンバウムが所有していた別のシーレ作品を巡る裁判において、コーンフェルドの説明に信憑性があることを認め、グリュンバウムのコレクションはナチスによって「略奪」されたのではなく、遺族によって合法的に売却されたという判決を下している。

今回、返還命令を受けたシカゴ美術館は、この2011年の判決を正当な所有権の証拠として挙げ、《Russian War Prisoner》が略奪品であるという当局の主張を否定。シカゴ美術館の広報担当者はARTnews US版にこう語っている。

「グリュンバウムが収集したシーレの作品は略奪されたのではなく、彼の遺族が所有しており、義理の妹であるマチルド・ルカーチ=ヘルツルによって売却されたと、連邦裁判所は明確な判決を下しています。違法な手段でこの作品を入手したのであれば返還命令に従いますが、私たちは正当な手段でシーレの絵画を手に入れています」

ニューヨーク州マンハッタンで2月22日に提出された160ページに及ぶ返還命令は、ナチスによって違法に調達された美術品がアメリカに密売された経緯を詳細に記している。ニューヨーク地方検事補のマシュー・ボグダノスの主張によると、スイスのオークションハウスの経営者を務めていたコーンフェルドと、1978年に死亡したニューヨークのギャラリーのオーナー、オットー・カリールが犯罪に関与していたという。当局側は、略奪された美術品販売に関する詳細を取引の一環として、コーンフェルドとカリールが隠していたと主張している。

マンハッタン当局から作品回収の礼状が初めて送られてきた2023年9月、シカゴ美術館は、美術館内における作品の差し押さえを要請し、館内で60日間の保管を認めるよう申請した。検察は2月下旬に発した返還命令を前に美術館側の申し入れを認め、2024年の春に予定されている口頭弁論が行われる前に美術館側に数カ月の猶予を与えている。口頭弁論の日程はまだ明かされていない。(翻訳:編集部)

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