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第3回フリーズ・ソウルの初日売上をレポート! 「今年の活気は格別」地元アーティストが好調

第3回フリーズ・ソウルが、ソウルの江南地区にあるCOEXコンベンションセンターで、9月4日のVIPデーを皮切りに幕を開けた(9月4日まで)。出展したギャラリーに話を訊いてみたところ、地元アーティストの作品が高額取引されたほか、ソウルに拠点を置くギャラリーも好調な売上を記録したようだ。

会場に設置されたハウザー&ワースのブース。Photo: ©The Artists/Estates. Courtesy the Artists/Estates and Hauser & Wirth/Creative Resources

欧米では現在アート市場が乱高下していると言われているが、アジアでは成長の兆しが見られる。9月4日から始まったフリーズ・ソウルは、アジアのアートマーケットの熱量を測る絶好の機会であることから、多くのマーケット・オブザーバーが訪れた。

フリーズ・ソウルでひとつ明白だったのは、出展者の多くがリスクを冒すことをいとわなかったということだ。アートフェアでは安定して取引される絵画を並べたブースも多かったが、彫刻やインスタレーション、映像など、必ずしも売れると保証されていない媒体を果敢に展示していた。それらは50万ドル(約7000万円)以上で販売した作品はほとんどなく、多くのギャラリーが価格を公表しなかったと語っていることも注目に値する。

好調な売上を示すメガギャラリー

4日のプレビューでは、メガギャラリーのディーラーたちは概して楽観的だった。例えば、Paceの担当者はUS版ARTnewsに対し、売れ行きは好調だと語った。依然アート市場が低迷している欧米に比べて、ソウルでは身構える必要はないのだ。

ソウルにあるPaceのギャラリーでは、抽象表現主義のマーク・ロスコと、「もの派」を牽引した韓国の画家、李禹煥の二人展が始まったばかりだった(10月26日まで)。フリーズの会場にはロスコの絵はなかったが、李の1988年制作の絵画を出品しており、同ギャラリーの申告によると5日に120万ドル(約1億7000万円)で販売された。

そのほかPaceは、4日にロバート・インディアナの小さなブロンズ彫刻《LOVE》を 55万ドル(約7900万円)で売却したほか、奈良美智、ロバート・ナヴァ、このほどギャラリー所属が発表された岡崎乾二郎、カイリー・マニング、田島美加、トークワセ・ダイソンの作品を販売した。

李禹煥《With Winds》(1988) Photo: Studio Flint/©Lee Ufan, Artists Rights Society, New York

ハウザー&ワースもPaceと同様に好調な売れ行きを記録しているようだ。「売上面で言うと去年よりも高い数値を記録していますし、会場内も今年の方が熱気に満ちているので、非常に満足しています」と、エグゼクティブ・ディレクターを務めるジェームズ・コッホは語り、より著名な海外の来場者が多く訪れ、韓国勢の存在感が増していると付け加えた。

同ギャラリーのブースでは、ニコラス・パーティによる2021年の作品《Portrait with Curtains》が250万ドル(約3億5600万円)で販売され、アジアに拠点を置くコレクターの手にに渡っている。これは本アートフェアで最も高値で取り引きされた作品の一つだ。ハウザー&ワースでは他にも、2024年のエイヴリー・シンガーの絵画が57万5000ドル(約8230万円)で販売されたほか、2023年のヘンリー・テイラーの絵画が45万ドル(約6430万円)、アンヘル・オテロのミクストメディア作品が28万5000ドル(約4100万円)、2024年のアンベラ・ウェルマンの絵画が4万ドル(約571万円)、2024年のリタ・アッカーマンのペインティング、そしてルイーズ・ブルジョワの彫刻と紙作品(いずれも価格未発表)といった作品に買い手がついたという。

フリーズ・ソウルには、デイヴィッド・ツヴィルナーガゴシアンの2大ギャラリーも出展。販売された作品の数や、売却したアーティストの作品を尋ねたところ、いずれのギャラリーからも答えを得ることはできなかった。また、デイヴィッド・ツヴィルナーは売れ行きについて明確に触れるのではなく、「ソウルは国際的なアートフェアにふさわしい都市の一つです」という定型文が、シニアパートナーのクリストファー・ダメリオから返ってきた。

地元ギャラリーが放つ存在感

このフェアで最も高値がついた作品のひとつは、メガギャラリーからではなく、ソウルの老舗ギャラリーであるPKMから出品されており、韓国の抽象画の草分け的存在として広く知られているアーティスト、ユ・ヨングクのペインティングが150万ドル(約2億1500万円)で取り引きされている。この作品は、今回のフリーズ・ソウルで売れた数少ない高額取引作品のひとつとなった。

ニューヨークのメトロポリタン美術館のファサードのためにコミッションワークを発表するイ・ブルの作品を、少なくとも二つのギャラリーが取り扱っていた。ソウルに拠点を構えるリーマン・モーピンもその一つだ。同ギャラリーは彼女の《Perdu》シリーズから2点を出品し、1点は21万ドル(約3000万円)、もう1点は19万ドル(約2700万円)で売却したという。これ以外にも、スゥ・ドーホーのドローイングを4点出品したほか、キム・ユン・シンのペインティング絵画5点と彫刻1点を取り扱っていた。リーマン・モーピンに所属する韓国人アーティストの作品にも買い手がついたというが、その取引額は明らかにしていない。ギャラリーの共同創業者であるレイチェル・リーマンは次のような声明を発表している。

「今年のフリーズ・ソウルの活気は格別でした。地元の人々が大挙して押し寄せ、特に東アジアや東南アジアのコレクターが韓国人アーティストの作品を購入し、なかには初めてアジア地域で作品を購入するという人もいました」

イ・ブル《Perdu CXC》(2023) Photo: Jeon Byung Cheol

一方、タデウス・ロパックでは、韓国のコレクターがイ・ブルの《Perdu CXIII》(2021)を19万ドル(約2700万円)で購入。同ギャラリーではまた、2023年のゲオルク・バゼリッツの絵画が100万ユーロ(約1億6000万円)で、マーサ・ユングヴィルトの抽象画2点が30万ユーロ(約4800万円)で、李康昭の作品が2億5000万ウォン(約2750万円)で、そしてデイヴィッド・サーレの絵画が5万ドル(約715万円)で売れている。

ヨーロッパに3つの拠点を構え、ソウルでもギャラリーを運営するロパックは、初日の売り上げは昨年ほどではなかったものの、フェアの集客力が落ちているわけではないと報告。売れ行きについては懸念していないとして、「まだフェアは始まったばかりで結論を出すには早すぎる」と声明で述べている。

今週、ソウルで最も注目されている展覧会の1つがサムスン・リウム美術館で開幕したばかりのアニカ・イの展覧会だが、ソウルに拠点を持つグラッドストーン・ギャラリーでは、イが手がけた機械のタコのような彫刻作品を数点、それぞれ20万ドル(約2860万円)で販売。また、ウーゴ・ロンディノーネの絵画が7万から17万ドル(約1000万〜2430万円)で、キース・ヘリングのドローイングが各12万5000ドル(約1790万円)で、サルボの絵画2点がそれぞれ37万5000ドル(約5360万円)と15万ドル(約2145万円)で買い手がついた。

「ソウルで接客することが重要」

その他の大手ギャラリーでも売り上げはまずまずといったところで、ホワイトキューブではアントニー・ゴームリーの彫刻を55万ポンド(約1億340万円)で、リッソン・ギャラリーでは杉本博司の作品を40万6800ドル(約5800円)、ケリー・アカシの彫刻を5万5000ドル(約787万円)で販売。ペロタンでは村上隆の絵画が60万ドル(約8580万円)、クジェ・ギャラリーはヤン・へギュの作品が4万1000から4万9200ユーロ(約656万〜787円)、ムン・ソンシクの絵画が5400万から6480万ウォン(約594〜713万円)で売れた。

マッツォレーニでは、アゴスティーノ・ボナルーミの《Blu》(2007)に10万ドル(約1430万円)前後で買い手がついた。一方、サンフランシスコを拠点とするジェシカ・シルバーマン・ギャラリーは、ハヤル・ポザンティの絵画10点を完売。最も大きい2点の価格はそれぞれ6万5000ドル(約930万円)で、シルバーマンは「大成功」と喜びを隠さない。なお、ポザンティは現在開催中の光州ビエンナーレ2024(12月1日まで)に参加している。

韓国では今週、ソウルを中心にイベントが目白押しで、アートフェアのフリーズやキアフ、光州ビエンナーレのほかにも数多くの美術館やギャラリーで新しい展覧会が開幕する。しかし、ニューヨークのアーモリーショーとフェアの時期が重なったことで、スケジュールの過密さに頭を痛める関係者は少なくない。

メキシコ・シティのギャラリー、プロイェクトス・モンクローヴァのディレクター、テオ・コーエンは、ソウルとニューヨークのフェアどちらに参加するか悩んだ末、両方に出展し、コーエン自身はソウルに行くことを選んだ。アジア市場が急拡大する中、ソウルで接客することがより重要だと感じたからだという。(翻訳:石井佳子、編集部)

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