揺れ動く実験都市、ベルリンのアートシーンに触れる美術館・ギャラリー20選【MAP付き】

「Poor but Sexy」というスローガンのもとで長年DIY精神・実験精神溢れる多くのアーティストを惹きつけてきたベルリンは、ジェントリフィケーションや文化予算の削減を経てどう変わろうとしているのか。ヨーロッパーのアートシーンで独自のポジションを築くベルリンの“現在”に触れられる20の美術館やギャラリーをご紹介しよう。

Photo: Emile Guillemot/Unsplash

ヨーロッパのアートシーンにおいて、ベルリンは長年DIY・インディペンデント精神をもつアーティストが集まる場だった。2003年には当時の市長がスローガン「Poor but Sexy」を掲げるなど、経済的価値だけでなく文化的価値を訴求する態度によって、多くのアーティストが自由に実験を行える場が育まれており、日本から訪れるアーティストや留学生も非常に多い。他方で、近年はジェントリフィケーションも進み、2024年には200億円超の文化予算削減が発表されるなど、ベルリンのアートシーンも変化のタイミングを迎えている。

経済的に見れば、UBSとアートバーゼルによるグローバル市場調査において4位にランクインするフランス(シェア率は7%)の首都パリは、EU加盟国の中で強い存在感を放っているが、実験の場としての歴史をもつベルリンからは、いま何が生まれようとしているのだろうか。ベルリンのアートシーンの現在地を捉えるべく、ここでは20の美術館・ギャラリー・アートブックストアをピックアップして紹介する。

1. Hamburger Bahnhof

かつてベルリンとハンブルクをつないでいたターミナル駅を改装した、一般的な美術館数館分の規模を誇るベルリン最大級の現代美術拠点。約1万平方メートルの空間はベルリン・ビエンナーレなどさまざまな展示会場となるほか、ドイツを代表するアーティストのひとりと言えるヨーゼフ・ボイスをはじめ、ロバート・ラウシェンバーグやマシュー・バーニーなど世界的な作家の作品が多くコレクションされている。

過去の展示

2. Neue Nationalgalerie

1968年につくられたこの美術館は、建築家のルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが第二次世界大戦後のドイツで設計した唯一の建物とされている。その後2015年からデイビッド・チッパーフィールドが修復を進め、2021年にリニューアルオープン。地下フロアには膨大な現代美術コレクションが並び、2024年に開催されたナン・ゴールディンの展示が大きな話題を呼ぶなど、注目の展示が数多く開催されている。

過去の展示

3. Berlinische Galerie

ベルリン州立の近現代美術館。写真・建築・ビデオといった領域に強みをもっており、トーマス・デマンドらドイツの写真家の作品など、ベルリンのアート史と縁のあるアーティストが多く取り上げられている。常設の「207㎡」はワークショップやコミュニティプロジェクト専用スペースとして機能し、IBBビデオ・スペースでは新進映像作家を定期的に紹介している。

過去の展示

4. Jüdisches Museum

2001年に開館した、ドイツにおけるユダヤ人の歴史や生活の記録を収集・研究・展示する美術館。敷地内をジグザグに走るように広がる建物は、ユダヤ系アメリカ人建築家ダニエル・リベスキンドの設計によるもの。館内には何もない空間「ヴォイド」や「ホロコーストの塔」と名付けられた空間も広がり、展示だけでなく空間そのものがユダヤ人の物語を伝えるものとなっている。

過去の展示

5. Gropius Bau

高さ26メートルの吹き抜けを特徴とする、19世紀に建てられたネオルネサンス様式の建築を活用した展示スペース。アニッシュ・カプーアアイ・ウェイウェイデヴィッド・ボウイなど名だたるアーティストらの展示が行われてきた。2025年6月からは音楽や映画、パフォーミングアーツなどを扱うイベントプログラム「Spätschicht」を始動させたほか、子ども向けプログラムも展開するなど、領域横断的なプラットフォームとして機能している。

過去の展示

6. Boros Gallery

第二次世界大戦中につくられた防空壕を改装した、クリスティアン&カレン・ボロス夫妻の私設コレクションを展示するスペース。5階建ての建物内には約3,000平方メートルの空間が広がり、彫刻や映像、写真など1,000点超の作品が収蔵されている。90分のツアーを通じて展示作品のみならず建物についてもガイドしてもらえるようになっているが、来館は完全予約制につき、ベルリンを訪れる際は早めに予約しておくことをオススメする。

7. C/O Berlin

写真とビジュアル表現に特化した非営利スペース。展示だけでなくアーティストトークやパネルディスカッション、映画の上映会などイベントを積極的に開催するほか、2006年からは35歳以下の新たな才能を発掘するプログラムC/O Berlin Talent Awardを実施している。教育プログラムも展開しており、アートシーンの醸成に寄与している。

過去の展示

8. Museum für Fotografie

20世紀初頭に建てられた、ベルリン動物園駅裏の旧カジノを活用した写真専門の美術館であり、ヘルムート・ニュートン財団が中心となって運営されている。ドイツを代表する写真家のひとりと言えるヘルムート・ニュートンにまつわる展示が多く、常設展「Helmut Newton’s Private Property」は私物や愛用していたカメラも展示している。

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9. König Galerie

ブルータリズム建築として知られる旧聖アグネス教会を改装した、2002年創業の老舗ギャラリー。巨大な吹き抜け空間を活かし、大型彫刻からNFTアートまでさまざまなジャンルの作品を展示している。代表のヨハン・ケーニッヒは自社発のオンラインアートプラットフォーム「misa.art」を立ち上げるなど、デジタルアートにも注力している。

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10. KW Institute for Contemporary Art

5階建ての旧マーガリン工場を改装し1991年に開館した独立系のアートセンター。創設者のクラウス・ビゼンバッハがベルリン・ビエンナーレを始動させた場所でもあり、ベルリンの実験精神を象徴するスペースと言える。地下スペースの「Pogo Bar」ではパフォーマンスイベントを開催するほか、若手アーティスト向けのメンタリングプログラム「BPA//」も行うなど、多様なプログラムを展開。

過去の展示

  • Ruth Buchanan, Otobong Nkanga, Collier Schorr, Rosemarie Trockel, Joëlle Tuerlinckx, Andrea Zittel「SKIN IN THE GAME
  • Jessica Ekomane「Antechamber

11. EIGEN + ART/EIGEN+ART Lab

老舗アートギャラリー「EIGEN + ART」は、2012年に若手・実験部門のプロジェクトスペース「EIGEN + ART Lab」もオープンしさらに展示が充実。若手アーティストを中心に毎月さまざまな展示やイベントが開催されており、レクチャープログラムが開催されることもあるなど、「ラボ」の名を冠するとおり、実験的な取り組みが多く展開されている。

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12. Esther Schipper

1989年にケルンで創業し、1997年にベルリンへ拠点を移した老舗ギャラリー。ピエール・ユイグフィリップ・パレーノなど、いまでは世界的に知られるアーティストを活動初期からサポートし、なかでもコンセプチュアル・アートに強みをもつ。現在はパリとニューヨーク、ソウルにも拠点を構え、グローバルなネットワークを形成している。

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13. SAVVY Contemporary

2009年にキュレーターのボナヴェンチャー・ソー・ベジェング・ンディクンが創設した独立系のアートスペース。ヨーロッパと非ヨーロッパの境界を問うべく、ドイツの植民地史を巡るアーカイブ/リサーチプロジェクト「Colonial Neighbours」をはじめ、展示だけでなく出版やレジデンスプログラムなど多くの取り組みを展開している。

過去の展示

14. Contemporary Fine Arts

1992年にブルーノ・ブルンネトとニコル・ハッカートが創設した、ベルリンの絵画シーンを牽引する老舗ギャラリーのひとつ。セシリー・ブラウンレイモンド・ペティボンサラ・ルーカスなど国際的なアーティストを初期からベルリンで紹介してきた。毎年春に開催されるイベント「ベルリン・ギャラリーウィークエンド」の常連でもあり、ローカルコミュニティと強いつながりをもっている。

過去の展示

15. KINDL

旧ビール醸造所を6階建てのアートセンターへ転用した大型施設。のべ1,600平方メートルの展示室と高さ20メートルの立方体型スペース「Kesselhaus」を活用し、サイトスペシフィックな大型インスタレーションが多く展開されている。音楽イベント「Kiezsalon」も実施し、カフェとビアガーデンを併設するなど、文化的なハブとして機能している。

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16. Capitain Petzel

1964年に建てられた東ドイツのモダニズム建築「Kunst im Heim」を活用し、2008年にオープンしたギャラリー。東ドイツの雰囲気を残すカール=マルクス=アレーに面し、1,300平方メートルの広さを誇るガラス張りの空間を特徴としている。ロバート・ロンゴが巨大木炭画で館内を埋め尽くした展示〈STAND〉など、サイトスペシフィックな展示が多く開催されることで知られている。

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17. Pro Qm

ベルリンのミッテ地区に位置する独立系書店。アートやデザインはもちろんのこと、建築から都市論、政治、ポップカルチャーに至るまで、幅広い分野の専門書や雑誌を扱っている。トークイベントも頻繁に開催されており、書店を一種の公共空間と捉えることで独自のコミュニティを構築している。

18. Do You Read Me?!

Do You Read Me?!は、ミッテ地区のギャラリー街・アウグスト通りに位置する独立系書店。元グラフィックデザイナーのオーナーによるキュレーションのもと、世界中の雑誌やZINEを取り扱っている。雑誌の魅力を伝えるべく壁一面に無数の雑誌の表紙が面出しされているディスプレイが特徴的だ。2025年にはニューヨークのスイス・インスティテュートでポップアップイベントを行うなど、その影響力は国外にも広がっている。

19. Motto Berlin

ディストリビューター「Motto Distribution」が手掛ける独立系書店Motto Berlinは、ギャラリーとしての機能も有している。世界150以上の出版社の書籍を扱い、書店や美術館、ギャラリーなど100拠点と取引している。店内では書籍の刊行イベントやトーク、映像作品の上映会なども頻繁に開催しており、小規模な店舗ながらベルリンの出版文化のハブとなっている。

20. einBuch.haus

展示形式で書籍のプレゼンテーションを行うプロジェクトスペース。毎回1冊のアートブックを起点として、アーティストとともにその内容を空間へと拡張していることが大きな特徴。アジアとヨーロッパの実験的な書籍をメインで扱いながら、アーティストによるトークやワークショップも開催しながらアートブックの新たなプレゼンテーション方法を追求している。

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