盗掘が「幻のヴィラ」を暴く──ローマ皇帝ゆかりの地で未知の豪邸跡が出土
- TEXT BY ARTNEWS JAPAN
ローマ西郊のカステル・ディ・グイドで、考古学者たちも知らなかったローマ時代の大邸宅跡が発見された。きっかけは、違法な盗掘の通報だった。
古代ローマ時代に「ロリウム」と呼ばれる集落があったローマ西郊の小村カステル・ディ・グイドで、考古学者たちにも存在が知られていなかった壮麗なヴィラ(大邸宅)跡が発見された。Live Scienceが報じている。
発見のきっかけは2026年2月、カステル・ディ・グイドの国有地で違法な発掘が行われているとの通報だった。ローマ特別監督局が6月15日に発表した声明によると、盗掘は油圧ショベルを用いて行われ、ヴィラの遺構に深刻な損傷を与えたうえ、大量の掘削土が残されていたという。
これを受け、ローマ特別監督局は考古学者アレッシア・コンティーノを責任者として、現場の記録と保全を目的とする緊急発掘調査を実施した。その結果、ヴィラ入口のアトリウム(前室)のほか、フレスコ画やモザイクで装飾された4つの部屋、大邸宅で農業が営まれていたことを示す複数の空間が確認された。
なかでも特徴的なのは、アトリウム中央に据えられた大理石製の雨水貯留槽「インプルウィウム」だ。その周囲の床は黒と白の植物文様・幾何学文様のモザイク帯で飾られ、約1.5メートルの高さまで残る赤い彩色が施された壁面には人物や植物を描いたフレスコ画が確認された。
さらにインプルウィウムからは、高さ約80センチの破損した彫像も見つかった。短いチュニックをまとい、鳥と果物の入った籠を持つ男性を表したこの像は、森や未開地の神であり、家畜の守護神でもあるローマ神シルウァヌスを表している可能性があるという。シルウァヌスは、ワインと豊穣の神バッカスの伴神としても知られる。
大きなアトリウムを囲む4つの小部屋のうち、3室ではモザイク床が発見された。1室には黒白の幾何学模様、別の1室には白地に黒の八角形模様、さらにもう1室には縁取りを施した黒い長方形模様が残されていた。
監督局は、こうした豪華な建築や装飾の特徴から、このヴィラの所有者がローマ貴族、あるいは皇帝家と関係の深い人物だった可能性を指摘している。
ロリウムには、第15代ローマ皇帝アントニヌス・ピウス(在位138〜161年)の父方・母方の家系であるアウレリウス氏族とアッリウス氏族が居住していた。古代の文献によれば、アントニヌス・ピウスは幼少期をロリウムで過ごし、のちにこの地に皇帝の宮殿を建設した。また、74歳で同地において生涯を閉じたとされる。
ロリウムには先帝ハドリアヌスも頻繁に滞在していた。さらに、アントニヌス・ピウスの妻の甥であり養子、そして娘婿でもあった第16代皇帝マルクス・アウレリウスとも縁が深い土地だ。アントニヌス朝との強い結び付きから、ロリウム周辺ではこれまでにも数多くの古代邸宅が発見されている。
予備的な年代推定によると、このヴィラは精緻なモザイクや壁画装飾が貴族の邸宅に広く用いられるようになった1世紀前半に建設・装飾されたと考えられている。その後、この地域に対する皇帝家の関心が薄れた3世紀頃から徐々に放棄された可能性が高いという。
ただし、考古学者たちは現時点で慎重な姿勢を崩していない。ヴィラはまだ全域が発掘されたわけではなく、全体の平面構造や利用の変遷、さらにはロリウムの広大な所領との関係を解明するには、今後のさらなる調査が必要だという。
今回の発見についてコンティーノは声明で、「この歴史豊かな土地の理解と保全に新たな視座をもたらす、重要なパズルの1ピースです」と述べた。
また、ローマ特別監督局は2026年6月20日、カステル・ディ・グイドで考古学トレッキングを2回開催し、この発見を一般公開した。ガイド付きツアーは約1.5〜2時間にわたり、参加者はヴィラの遺構や修復作業中のモザイクを見学したという。
15. 150年ぶり快挙! 古代エジプト「カノプス勅令」の新たな石碑を完全な状態で発見
古代エジプト、プトレマイオス3世治世下の紀元前238年に発布された「カノプス勅令」の、これまで知られていなかった複製が完全な形で見つかった。発見されたのは古代都市イメットがあった場所で、新たな石碑の出土は実に150年ぶりだという。【続きを読む】Photo DeAgostini/Getty Images

世界最古の老人ホーム跡が見つかったヒッポス国立公園の遺跡。Photo: Courtesy of Dr. Michael Eisenberg
14.古代都市遺跡から「世界最古の老人ホーム」跡──1600年前の高齢者の生活を示す貴重な発見
イスラエル・ハイファ大学の研究チームによる古代都市ヒッポスの発掘調査で見つかった施設跡が、世界最古の老人ホームである可能性が高いと8月18日に発表された。【続きを読む】 Photo: Courtesy of Dr. Michael Eisenberg
13. モーセが実在した証拠か──3800年前の碑文の新解釈が物議。手がかりは高解像度写真と3Dスキャン
旧約聖書の『出エジプト記』に登場し、十戒や海割りで知られるモーセの実在性について、現在では歴史的事実の裏付けはないとされることが一般的だ。しかし、それをくつがえす新説を唱える学者が現れた。【続きを読む】 Photo: De Agostini via Getty Images

12. 古代エジプト彫刻の常識を覆す発見! 墓荒らしが見逃した石像がサッカラ遺跡で出土
エジプトのサッカラ遺跡で、盗掘者が放置した石像が発見された。丸彫りと浮き彫りを併用したこの石像は、古王国時代に類例のない作品として、専門家たちの関心を呼んでいる。【続きを読む】 Photo: Courtesy of Zahi Hawass Library
男性の後ろ脚に隠れる姿て彫られている少女。Photo: Courtesy of Zahi Hawass Library
11. 噴火後も300年間人々が暮らしていた? ポンペイで通説を覆す新発見
ポンペイは、西暦79年8月25日のヴェスヴィオ山の噴火により灰に埋もれ、18世紀に再発見されるまで、人々が住むことはなかったとされてきた。だがポンペイ考古学公園が行った最新の発掘調査により、生き残った人たちが5世紀まで生活していたことが分かった。【続きを読む】Photo: Getty images
ポンペイの住居跡。2015年撮影。Photo: Wikimedia Comons
10. 世界最古のピラミッドで古代エジプト王子の墓を発見! 2000年後に別人の墓に再利用された痕跡も
エジプトのサッカラで古代エジプト王子の墓が発見され、複数の重要な遺物も出土した。その中には異なる時代のものも含まれており、古代エジプトの埋葬施設が長期間にわたって再利用されていたことを裏付けている。【続きを読む】Photo: Courtesy Egyptian Ministry of Tourism and Antiquities
9. まるで創世神話の1シーン! 最新調査で、古代エジプト・カルナック神殿は「島」にあったことが判明
エジプト・ルクソール近郊にあるカルナック神殿で、この地域における初の包括的な地質考古学調査が行われた。その結果、初期のカルナックは河川の浸食により出現した島状の地形であったことや、中王国時代に始まったと考えられていたこの地域への人々の居住が300年以上も前の古王国時代から行われていたことが明らかになった。【続きを読む】
8. 3000年前のマヤ文明遺跡群を発見。先コロンブス期の社会政治的・宗教的構造への理解を深める手がかりに
グアテマラ北部でマヤ文明の遺跡群が発掘された。3つの都市遺跡にまたがる約16平方キロの地域で、約3000年前のピラミッドや聖域、独自の運河システムなどが見つかっている。【続きを読む】Photo: Courtesy the Guatemalan Ministry of Culture and Sports
7. 世界の七不思議「アレクサンドリアの大灯台」海底から巨大石材──歴史の空白を埋める手がかりに
フランス国立科学研究センターの調査チームが、世界七不思議の1つ、アレクサンドリアの大灯台の海底遺構から22個の巨大な石材を引き上げた。アレクサンドリア港の底からは、約30年前に初めて、遺跡と断定できる柱や彫像が発見されている。【続きを読む】 Photo: Courtesy GEDEON Programmes / CEAlex
6. ポンペイの家族を襲った悲劇が明らかに。ドアをベッドで封鎖し最期まで抵抗を試みる
79年8月、ヴェスヴィオ火山の噴火による火砕流に襲われた古代都市ポンペイ。突然の災害から最期の瞬間まで生き延びようと試みた1つの家族の物語が新しい調査で明らかになった。【続きを読む】 Photo: Courtesy Pompeii Archaeological Park
5. メキシコの密林に古代都市を発見! 要塞の「真の姿」がレーザー測量によって明らかに
カナダのマギル大学の研究者が実施したレーザー測量調査によって、これまで要塞だと考えられてきたメキシコの密林地帯に古代都市が眠っていることが明らかになった。【続きを読む】 Photo: Pedro Guillermo Ramón Celis, and the Guiengola Archaeological Project
都市の中心地。ピラミッドや寺院などが多く建てられている。Photo: Pedro Guillermo Ramón Celis, and the Guiengola Archaeological Project
東側に位置していた居住エリア。Photo: Pedro Guillermo Ramón Celis, and the Guiengola Archaeological Project
Photo: Pedro Guillermo Ramón Celis, and the Guiengola Archaeological Project
4. 約1300年前の黄金の釈迦如来レリーフをタイの涅槃像下で発見。金・銀・青銅の遺物が多数出土
タイ東北部の由緒ある寺院で涅槃仏の保存活動を行っていたところ、黄金の釈迦如来坐像のレリーフなど、約1300年前のものと見られる貴重な遺物が多数発見された。【続きを読む】 Photo: Courtesy Thailand Fine Arts Department
3. 古代ローマに「巨人部隊」!? ハドリアヌスの長城付近のごみ捨て場から30センチ以上の靴が大量発見
イギリス北部にあるハドリアヌスの長城付近で、長さ30センチメートル以上の古代ローマ時代の靴を多数発見した。考古学者たちは「巨人」で編成されたローマ軍部隊が存在した可能性があるとして、その謎を解くための調査を始めた。【続きを読む】Photo: Facebook/The Vindolanda Trust
2. 4000年前の「答案用紙」に計算ミスを発見! 古代バビロニアの高度な数学教育を裏づけ
イラクのキシュ遺跡から出土した4000年前の小さな粘土板を解読したところ、学生のテスト用紙だったことが判明。三角形の面積計算を間違っていたことも明らかになった。【続きを読む】Photo: Zunkir via Wikimedia Commons
1. 古代エジプトの「魔術師」が眠る墳墓を発見! 古王国時代の生活や文化の「新しい側面」も
古代エジプト王のペピ2世が統治していた時代に生きた医師「ティティ・ナブ・フ」の墓がこのほどフランスとスイスの共同調査チームによって発見された。独特な彫刻やドローイングで墓は彩られており、当時の日常生活や文化の解明につながるとエジプト政府は発表している。【続きを読む】