アートリテラシーを高めるおすすめ映画7選──草間彌生、バンクシー、ゴッホなど
映画はそれ自体がアートであり、総合芸術。おまけに娯楽でもあるから、アートを楽しく知るにはもってこいだ。そこで、休日などにまとめてチェックしたいアートリテラシーが高まる映画を、旧作から最新作まで厳選して7作品紹介しよう。
目次
現場の舞台裏を観れる3作品
まずは、アートを生み出す現場の舞台裏をとらえたドキュメンタリーを3作まとめて。『バンクシーを盗んだ男』、『草間彌生∞INFINITY』、『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ 手彫りの映画、その舞台裏』だ。
1.『バンクシーを盗んだ男』
言うまでもなく世界一有名なグラフィティアーティストの一人、バンクシーの製作……ではなく、彼らの生み出したアートが巻き起こす騒動を追ったドキュメンタリー。バンクシーが誰か、ということはさておき、時代の流れを読むことには世界一長けた人々が、そのときどきで注目すべき地に赴き、こそっとアートを仕上げて場所自体をアートに早変わりさせている。賛否は真っ二つだが、重要なのは、ストリートアートは美術界や美術マーケットの評価よりも、それが作られた地元の人々がどう受け止めるかによって存在価値は変わる、ということ。パレスチナ自治区の分離壁に描かれた《ロバと兵士》はまさにそれ。地元の人々には不評で、壁ごと切り取り売却することになるというエピソードが描かれている。
Photo: © MARCO PROSERPIO 2018
作品情報:『バンクシーを盗んだ男』
製作年:2017年
製作国:イギリス・イタリア合作
上映時間:93分
配給:シンカ
監督:マルコ・プロゼルピオ
製作:フィリッポ・ペルフィド
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2.『草間彌生∞INFINITY』
その名の通り、現代美術界の大物・草間彌生の半生を振り返るドキュメンタリー。最近では、ルイ・ヴィトンとのコラボでアートを知らない人にも大人気となっている彼女だが、映像の中では、実際にどのような人生を送り、創造の原点はどこにあったのかが、淡々と綴られている。現在では国内外ともに名声を獲得している彼女だが、かつての日本では彼女の評価は「キワモノ」。それがゆえに単身アメリカに渡り、自身と向き合うことで生まれてきた彼女の創作物の原点を、この作品で知ることができる。展覧会などでゲットできる資料よりも、ぐっと踏み込んだ伝記的資料として楽しめるはず。
Photo: Artist Yayoi Kusama drawing in KUSAMA -INFINITY. Tokyo Lee Productions, Inc. Courtesy of Magnolia Pictures.
作品情報:『草間彌生∞INFINITY』
制作年:2019年
製作国:アメリカ
上映時間:77分
監督:ヘザー・レンズ
出演者:草間彌生
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3.『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ 手彫りの映画、その舞台裏』
オスカー監督のギレルモ・デル・トロが、15年を費やし手掛けたストップモーション・アニメーション『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の舞台裏をとらえた、今冬の新作ドキュメンタリー。途方も無い時間をかけて撮影されるストップモーション・アニメーションの裏方仕事と、それを支える職人の技、タイムラプスによるメイキング映像はもちろんだが、これを観ると、映画がアートに昇華するには何が必要か、ということが分かる。それは職人技の集合体を、物語に即した表現、そしてキャラクターの微細な動きや表情に命を吹き込むアーティストたちのこだわり。めったに見ることのできないオスカー監督の現場を垣間見ることができる貴重なドキュメンタリーといえる。
Netflix映画『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』独占配信中
作品情報:『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ 手彫りの映画、その舞台裏』
制作年:2022
上映時間:30分
製作国:アメリカ・フランス合作
監督:ギレルモ・デル・トロマーク・グスタフソン
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アートの商業的価値について考えさせられるドキュメンタリー2作品
あと2作、ドキュメンタリーを。どちらもアートにはつきものの「商業的価値」にスポットを当てた作品、『世界で一番ゴッホを描いた男』、『アートのお値段』だ。
4.『世界で一番ゴッホを描いた男』
タイトルの通り、ゴッホの複製画を20年間描き続けている中国の画家チャオ・シャオヨンを追ったドキュメンタリー。中国・深センの通称「油絵村」こと大芬(ダーフェン)は、ありとあらゆる複製画が、アホのような安値で手に入る場所。筆者も実際に行ったことがあるが、ゴッホやセザンヌ、フェルメールはもちろん、現代美術家による模倣できそうにない作品までが、ズラリと並ぶ街だ。そこで最大の売れ筋とされているのが、ゴッホの複製画。チャオが売れ筋を描くことは、イコール「生活のため」にほかならない。彼は美術への専門知識があったわけではなく、独学で複製画を創り続け、多いときには月に700枚ほどを仕上げる。それも複製のもとにしているのは、絵葉書や写真など。そんな彼が、自分が描いた複製画の行き着く先を見る機会を、このドキュメンタリーのおかげで得ることに。その結果……。
Photo: © Century Image Media (China)
作品情報:『世界で一番ゴッホを描いた男』
製作年:2016年
上映時間:84分
製作国:オランダ・中国合作
配給:アーク・フィルムズ、スターキャット
監督:ユイ・ハイボー/キキ・ティンチー・ユイ
製作:キキ・ティンチー・ユイ
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5.『アートのお値段』
アート、特に現代美術の分野に属する作品は、投資目的で売買される「財産」として市場が沸き立っている。なにせ、1枚の絵画が億単位で取引されることが珍しくないうえに、その価値は一度上がれば下がることは少なく、上がり続けるというお宝だから。では、その価値を決めているのは誰か。このドキュメンタリーは、画商や評論家、コレクターはもちろん、アーティスト本人へのインタビューも敢行し、切っても切れない関係になったアートと商業を見つめ直す。
作品情報:『アートのお値段』
製作年:2018年
上映時間:98分
製作国:アメリカ
配給:ユーロスペース
監督:ナサニエル・カーン
製作:ジェニファー・ブレイ・ストックマン/デビ・ビッシュ カーラ・ソロモン
出演:
ラリー・プーンズ、ジェフ・クーンズ、エイミー・カペラッツォ、ステファン・エドリス、ジェリー・サルツ、シモン・デ・プリ、ジョージ・コンド、ジデカ・アクーニーリ・クロスビー、マリリン・ミンター、ゲルハルト・リヒター他
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北欧の国民的アーティストたちの伝記映画2選
最後に偉大なアーティストの伝記映画を。『TOVE/トーベ』と、『トム・オブ・フィンランド』だ。
6. 『TOVE/トーベ』
ムーミンの生みの親として知られるフィンランドの画家、トーベ・ヤンソンの伝記映画。第二次世界大戦の激しい戦火のなか、子どもたちに語った物語からムーミンの世界を作り出した彼女が、画家として、作家としての立ち位置を築く際、何が彼女を突き動かしたかを描く。有名な話だが、彼女は、当時処罰の対象になる同性愛者であり、男尊女卑が当たり前の50年代に、美術界の不当な差別と一人闘ったアーティストだった。この作品では、そのありのままを映し出している。
Photo: (C) 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved
作品情報:『TOVE/トーベ』
製作年:2020年
上映時間:103分
製作国:フィンランド・スウェーデン合作
配給:クロックワークス
監督:ザイダ・バリルート
製作:アンドレア・ロイター アレクシ・バルディ
豪華版Blu-ray ¥6,380
豪華版DVD ¥5,280
通常版DVD ¥4,290
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
発売元:クロックワークス
(C) 2020 Helsinki-filmi, all rights reserved
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7.『トム・オブ・フィンランド』
同じフィンランドでトーベ・ヤンソンよりもさらに不当な扱いを受けたゲイアートの巨匠トム・オブ・フィンランドことトウコ・ラークソネンについての伝記。彼もまた第二次世界大戦の時代からゲイであることを自覚し、その欲求をイラストにしたためてきたことで、世界的な男絵師となったことが描かれる。この2作からは、セクシュアリティやジェンダーによる差別は全くもって間違っていることや、偉大なるアーティストが受けた過去の差別や偏見に対する反省を感じ取れるはず。現に彼らの作品は、フィンランドの郵便切手に描かれるほど、国民的なアーティストとなっているのだから。
作品情報:『トム・オブ・フィンランド』
製作年:2017年
上映時間:116分
製作国:フィンランド・スウェーデン・デンマーク・ドイツ・アメリカ合作
配給:マジックアワー
監督:ドメ・カルコスキ
製作:アレクシ・バルディ/ミーヤ・ハービスト アンニカ・サックスドーフ
DVD発売中(公式ページ)