予想落札額は約116億円! クリムト最晩年の作品が約30年ぶりにオークションへ
サザビーズは、グスタフ・クリムト(1862-1918)が最晩年に制作した肖像画《扇を持つ貴婦人》(1917)がオークションに出品されると発表した。予想落札額は、ヨーロッパにおける絵画の見積額としては過去最高となる6500万ポンド(約116億円)。
《扇を持つ貴婦人》は過去に、1994年のサザビーズ・ニューヨークのオークションで、1160万ドル(約16億円、手数料込み)で落札されている。今回のオークションは、6月27日、サザビーズ・ロンドンで行われる。約30年ぶりの名画の登場にサザビーズは、「ロンドンの夏のオークションシーズンの主役」、「ヨーロッパで現在手に入る美術品の中で、最も素晴らしく、最も価値のある作品」と銘打っている。
サザビーズは《扇を持つ貴婦人》に非常に高い見積もり額を付けたが、これはクリムト作品の過去のオークションや個人売買による肖像画のほとんどが美術館に所蔵されていることに基づいている。つまり、一般が手に入れる機会はほとんど無いのだ。
例えば、現在はニューヨーク近代美術館(MoMA)が所蔵する《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 Ⅱ》(1912)は、2006年11月にクリスティーズ・ニューヨークで、1800万ドル~2500万ドル(現在の為替で約25億円~約35億円)の見積もり額の上限から3.5倍以上となる8790万ドル(同約125億円、手数料込み)という記録的価格で売却された。ブルームバーグによると、買い手はオプラ・ウィンフリーで、その後、彼女は2016年に約1億5000万ドル(同約212億円)で売却したと伝えられる。
映画の題材にもなった《アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 Ⅰ》は、アートニュースペーパーによると、2006年にロナルド・ローダーが、自身が創設したニューヨークのノイエ・ギャラリーで所蔵するために1億3500万ドル(現在の為替で約191億円)で購入したという。
また、肖像画《Frauenbildnis, Ria Munk III》は、2010年にロンドンのクリスティーズで手数料込み2790万ドル(現在の為替で約39億円)、風景画《Bauerngarten》(1907)は2017年、サザビーズ・ロンドンで5910万ドル(同約83億円)で落札された。先月はサザビーズ・ニューヨークで、クリムトの風景画《Insel im Attersee》が、7分間にわたる入札合戦の末、推定価格約4500万ドル(約62億円)を大きく上回る5320万ドル(約73億円)で日本の個人コレクターに売却されている。
《扇を持つ貴婦人》は、画家の死後まもなく、ウィーンの実業家エルヴィン・ベーラーが入手している。ベーラーの家族は、クリムトやエゴン・シーレと親しく、パトロンでもあった。ベーラー一家は、クリムトの風景画のモチーフとなったザルツブルク近郊の湖でクリムトと休暇を過ごし、そこで一緒に写真を撮ったこともあるという。
この作品は、やがてクリムトと親交が深かったエルヴィンの兄ハインリッヒに、そして1940年にハインリッヒの妻メイベルに受け継がれた。その後メイベルは、ウィーンの美術収集家であり美術館の館長を務めたルドルフ・レオポルドに《扇を持つ貴婦人》を売った。レオポルドはメイベルから、そのほかにも多くのシーレ作品を購入している。現在の所有者の家族は、1994年にサザビーズ・ニューヨークのオークションで《扇を持つ貴婦人》を入手した。サザビーズは、この一家の身元や今回の売却の理由を明らかにしていない。
《扇を持つ貴婦人》は、ウィーンのベルヴェデーレ美術館で2021年から22年にかけて開催された「グスタフ・クリムト遺作展」で、1994年に売却されて以来初めて公開されている。
サザビーズ・ヨーロッパ会長のヘレナ・ニューマンは、クリムトが《扇を持つ貴婦人》の背景に蓮の花や鳳凰、龍を描いていることや、女性の衣のモチーフから、アジアへの強い関心があったとうかがえるとアートニュースペーパーにコメントしている。
ニューマンは、また、「クリムトは、モディリアーニ、ピカソ、ジャコメッティなど、オークションで1億ドル以上を達成した画家の中でも稀有な存在です」とも語っている。(翻訳:編集部)
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