グーグルが碑文復元ツール「Aeneas」を発表! 古代人が遺した「巨大なジグソーパズル」解読に期待

古代ローマの人々が残した碑文は毎年およそ1500点が発見されているが、多くは欠損が激しく、内容の解読が困難とされている。こうした課題を解決するため、グーグル傘下のDeepMindが、欠損部分の補完や作成年代を推定するAI「Aeneas(アイネイアス)」を発表した。

修復された青銅製の軍事卒業証書。Photo: Courtesy of the Metropolitan Museum of Art
修復された青銅製の軍事卒業証書。Photo: Courtesy of the Metropolitan Museum of Art

考古学者たちは、古代の人々の生活を解明する手がかりとして、土器や武器、遺骨などの遺物を分析するだけでなく、建造物の壁などに刻まれた碑文の解読も行っている。しかし、多くの碑文は破損や欠損が激しく、内容の解読や作られた年代の特定は難航しがちだ。

こうした課題を解決するために、人工知能(AI)を開発しているグーグルの子会社、DeepMindは研究者の負担を軽減するツールを発表した。ローマ神話のトロイアの英雄にちなんで「Aeneas(アイネイアス)」と名付けられたこのAIは、碑文の作成時期や場所を予測するほか、摩耗や損傷によって失われた部分に記されていたと考えられる単語を補完する機能も備えている。

皇帝の勅令や政治家に向けられた悪態、愛を綴った詩、店の売り上げの記録など、日常生活に関する記述が多く残っている碑文は毎年1500点ほど新たに発見されているといい、古代の生活史を分析する際には欠かせない史料の1つだ。「碑文の魅力は、あらゆる社会層の人によって記されていること。勝者だけが遺した文書ではないのです」と、考古学者のテア・ソマーシールドは語る。

「Aeneas」を試したソマーシールドら考古学者は、このAIが碑文の文面を正確に推測できたとしても、文化的背景の特定には直結しないと指摘。しかし、研究対象の碑文と類似する例を特定できるようになり、文脈の把握や欠損部分の補完が大幅に効率化されたと評価する。ソマーシールドは、DeepMindの記者会見でこう語った。

「碑文を通じて歴史を研究することは、巨大なジグソーパズルを解くような作業です。AIによって得られた情報をもとに、今後さらに解読を進めるための断片を見つけ出す必要があります」

Aeneasの訓練には、膨大な古代碑文のデータベースが用いられた。こうした訓練データには文字情報や画像が含まれており、紀元前8〜紀元前7世紀にかけて作られた碑文のリストがプログラム内に組み込まれている。豊富な文献で訓練されたこのAIは、調査の対象となる碑文を62のローマ属州のいずれかに分類し、作られた時期を13年以内の誤差で推定できるという。また、欠損箇所を埋める単語の候補も提供される。ただしこの機能は、解読されている碑文の一部をあえて隠し、AIが正しく補完できるかを試すテストでのみ検証されている。

考古学者とDeepMindの研究者からなる開発チームは、ローマ帝国各地の記念碑に刻まれた碑文を使ってテストを実施しており、そのひとつが、初代ローマ皇帝アウグストゥスが自身の業績や人生を記した神君アウグストゥスの業績録だった。Aeneasがこの碑文を分析したところ、紀元前1世紀前半、あるいは紀元10〜20年に作られたと推測。これ以外にも、ドイツ南西部の都市、マインツにあるモゴンティアクムの奉納祭壇碑文の分析においては、微細な言語的な共通点から、この碑文が同地域における奉納習慣の伝統の一部であることが示された。

AIモデルの発表に伴い、DeepMindは、研究者や学生、教育者、そして博物館関係者に向けて「Aeneas」をウェブサイト上で無料公開している。また、さらなる研究を促進するためにAeneasのソースコードもGitHubにて公開中だ

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