2000年前の中国の岩絵、鮮やかさの秘密は「ヒトの血」──出産時の血液が用いられた可能性も

中国南部にある世界遺産「左江花山の岩絵」は、約2000年にもわたり鮮やかな赤い色をとどめてきた。なぜ、これらの絵が風化に耐えられたのか、新たな研究によると動物やヒトの血液が用いられていることに理由があるという。

中国・広西チワン族自治区にある「左江花山の岩絵」の1つ。Photo: Qin Ningzhen via iStock/Getty Images Plus

2016年にユネスコ世界遺産に登録された「左江花山の岩絵の文化的景観」は、中国南部の広西チワン族自治区にある。岩絵は紀元前5世紀から紀元後2世紀にかけてチワン族の祖先である駱越(らくえつ)人が描いたものとされ、総数5000点を超える絵が左江とその支流によって削られたカルスト地形の断崖で見つかっている。

露天の断崖に描かれた岩絵のほとんどは人物で、銅鼓を持ち踊る人々や儀式の様子などが見られる。高温多湿な環境にもかかわらず、これらの絵には約2000年以上もの間、鮮やかな赤い色が失われずに残されているが、その理由はこれまで長らく謎とされてきた。

この問題に取り組んだのが中国・山東大学の考古学研究チームで、動物やヒトの血液を混ぜた顔料が使われたことに秘密があるとする新たな研究を発表。詳細な研究内容は、学術誌「Journal of Archaeological Science」9月号に掲載されている。

研究チームは、80カ所以上ある岩絵遺跡のうち3カ所から採取された岩絵の断片を対象に、赤外線・X線技術やプロテオミクス(タンパク質の網羅解析)による分析を行った。その結果、岩絵の顔料にはナノヘマタイト(微細な赤鉄鉱の粒子)を豊富に含む赤色粘土が使用され、その粒子をモルタル層が包み込んでいたことが示された。そして、そのモルタル層から石灰のほかに血液の成分が検出されたという。

研究論文には、「血液中のタンパク質が生物鉱化作用を誘発し、形成された炭酸カルシウムがナノヘマタイトを包み込んで石灰岩へ強固に付着している」と記述され、それが岩絵を良好な状態に保ってきたとしている。この成果について研究チームを率いる山東大学の孟武(Meng Wu)は、アート・ニュースペーパー紙の取材でこう語った。

「世界各地の多くの民族誌学研究において、先史時代の岩絵の制作に血液が使われていたことが指摘されています。これは、岩絵を描いた人々の多くが狩猟採集民であったことと関連している可能性があります。今回の研究は、初期の社会、とりわけ狩猟採集民の社会における化学的な技術の水準をより深く理解する助けとなるものです」

また、検出された血液由来のタンパク質の中に妊娠や授乳に関連するものが含まれていることから、出産時の血液が使用された可能性があるとしている。さらには、出産時の血液の使用が「母系制の漁労・狩猟・採集社会における女性の生殖能力への崇拝と結びつくものである可能性」も示唆された。

ただし、南米における同時代の古代岩絵を専門とする考古学者ホセ=ミゲル・ペレス・ゴメスはアート・ニュースペーパー紙に対し、その根拠に対する慎重な見方を示した。ゴメスは、研究チームの説は興味深い可能性を秘めているとしつつ、次のように指摘する。

「それらのタンパク質は出産時だけに特有のものではありません。また、古代DNAの検出がなく、80カ所以上の岩絵群のうちサンプルが採取されたの3カ所のみです。もし出産時の血液が意図的に選ばれていたのだとすれば、次のような点をさらに検討すべきでしょう。生殖に関連する図像がヒトの血液の検出された場所に集中しているか、描かれるモチーフによって顔料の配合が異なるか、そして空間的な配置そのものが儀式の一部を成すものだったかなどの点です」

いずれにしても、新たな研究による知見は、先史時代の岩絵が「単なる労働集約的な作業ではなく、高度な技術を要するプロジェクトであった」ことを示している。

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