BTSがグーグル・ストリートギャラリーとコラボ。メンバーセレクトのお気に入りアートが、思い出の場所に
世界中で大人気のポップスター、BTS。6月14日にはグループでの活動休止を発表し、ARMY(アーミー)と呼ばれる熱狂的なファンの間に衝撃が走った。また、リーダーのRMは、アートコレクターとしての絶大な影響力が最近話題になっている。そのBTSのメンバーが、グーグル・アーツ&カルチャーとコラボ。グーグル・ストリートビュー上でお気に入りのアート作品を紹介している。
7月9日に始まったコラボプロジェクト「BTS×ストリートギャラリー」では、メンバーそれぞれが、好みのアート作品をグーグルのストリートビューから選んだ場所に展示している。
たとえばSUGA(シュガ)は、BTSが米国で初めて本格的なコンサートを行った、ロサンゼルスのドルビー・シアター付近の街並みを展示場所にした。というように、BTSのメンバーが選んだのは、これまでの彼らの歩みにゆかりのある場所だ。まさに、デビュー9周年を迎えたBTSにふさわしいトリビュートと言えるだろう。ちなみに、グループとしては活動休止を発表したが、個々のメンバーはそれぞれに活動を行い、メンバー同士が一緒に公の場に姿を見せることも多い。
SUGAのストリートギャラリー。建物の壁に作品画像や写真を貼り付けてギャラリーを作り上げている。 画像引用元:https://artsandculture.google.com/experiment/GAF29KhE_DxEnA
各作品には、なぜそれを選んだかなどの短いコメントも添えられている。メンバーの多くは、ミュージシャンやダンサーという、自分たちの活動に関係のある作品に惹かれたようだ。なお、ほとんどの展示作品はメトロポリタン美術館の収蔵品で、パブリックドメイン画像が使われている。
今回のコラボレーションは、グーグルの新機能、ストリートギャラリーをより多くのユーザーに試してもらうための良くできたプロモーションと言えそうだ。実際に、BTS×ストリートギャラリーの下部には「Create Your Own(自分のギャラリーを作成)」というボタンがある。ユーザーはBTSが選んだ画像に加え、グーグル・アーツ&カルチャーが追加した画像を使ったり、リミックスしたりして、自分だけのストリートギャラリーを作ることができる。
それでは、各メンバーが選んだアート作品を紹介しよう。BTSのストリートギャラリーを開きながら楽しんでもらいたい。ちなみに作品は360°ぐるっと展示されている。
RM
Photo: Met Collection
RM(アールエム)のストリートギャラリーがあるのは、ソウルの南大門。2021年のグローバルツアーをスタートさせた記念すべき場所としてここを選んだという彼は、ストリートギャラリーのコメントにこう付け加えている。「韓国の重要な歴史的モニュメントでもある」
アートセレクションには、韓国の歴史的遺産が多く含まれている。たとえば、李氏朝鮮時代の満月壺や酒を貯蔵するための梅瓶、官僚の身分を表す図柄を刺繍した階級章など。この時代の階級章には、9つの階級ごとに異なる動物が描かれている。たとえば、最高位の階級章の絵柄は、2羽の鶴と不老不死の効用を持つ植物をモチーフにしたものだ。
RMのストリートギャラリーには、このほかにもW・ターナー、クロード・モネ、ジョルジュ・スーラ、アンリ=エドモン・クロス、ポール・セザンヌといったロマン派や印象派の画家の作品が展示されている。そして彼は、こんなコメントを寄せている。
「僕にとってアートとは、時間を超越したものだ」
JIMIN
Photo: Met Collection
JIMIN(ジミン)のストリートギャラリーは、BTSのラブ・ユアセルフ・ツアーでコンサート会場となったシンガポールのマリーナベイ・サンズにある。そして、作品をセレクトするテーマにしたのは「自分自身を愛する」ということだ。
ストリートギャラリーのコメントで、JIMINはこう書いている。「自分自身を愛するといえば、僕にとってもここ数年間は自分自身を愛し、受け入れるための旅だった。自分が誰なのかを思い出させてくれるいくつかの作品を通して、これまで経てきた道のりを共有させてほしい」
展示作品の中には、ダンスやランニングなど、彼の好きなアクティビティーを描写したものがいくつかある。たとえば、チャールズ・アルバート・ロペスの彫刻《The Sprinter(短距離走者)》(1902)や、インドの寺院を飾っていた11世紀半ばの彫像《Celestial dancer(天空のダンサー)》などだ。
V
Photo: Met Collection
V(ヴィ)のストリートギャラリーがあるのは、ロンドン。ギャラリーで紹介されている作品の多くは、カメラ好きで知られる彼ならではのものだ。Vは次のようにコメントしている。「雰囲気があって絵みたいなロンドンの街並みはお気に入りの被写体。でも、自然を撮るのも大好きだ。カメラのおかげで、その場所を深く知り、美しさを発見することができる」
そんな彼がストリートギャラリーに選んだ写真作品は、ヘンリー・P・ボッセの《Mouth of Wisconsin River(ウィスコンシン河口)》(1885)、ピーター・ヘンリー・エマーソンの《Rowing Home the Schoof-Stuff(船を漕いで藁束を持ち帰る)》(1886)、ギュスターヴ・ル・グレイの《Brig on the Water(水上の帆船)》(1856)など、全て1800年代半ばに水辺で撮影されたものだ。グレイの作品について、彼はこう書いている。「この光! この雲! 湾を横切っている小さな船! ああ、こういう写真はいつまでも眺めていられる......」
このほかに、Vは自ら撮影した写真もギャラリーに忍び込ませている。日付もタイトルもないが、おそらく飛行機から夕暮れの地平線を撮影したものだ。また、エゴン・シーレやゴッホの絵画などもある。
J-HOPE
Photo: Met Collection
J-HOPE(ジェイホープ)が選んだのはニューヨーク。ユニセフの親善大使として、何度もスピーチに訪れた国連ビルの近くだ。「前向きな気持ちになれる作品を国連に持ってきた」と彼は書いている。
JIMINと同様、J-HOPEもダンスの楽しさを思い起こさせる作品を選んでいる。たとえば、ジャン=バティスト・カルポーの《Genius of the Dance(ダンスの天才)》、シャルル・ポール・ルヌアールの銅版画《Balletles in zaal met violist(バイオリン奏者のいるバレエのレッスン)》などだ。
また、親善大使を務めている彼ならではの作品もある。ランドルフ・ロジャースの《Nydia, the Blind Flower Girl of Pompeii(ポンペイの盲目の花売り娘ニディア)》(1859)は、エドワード・ブルワー=リットン男爵が1834年に書いた小説『ポンペイ最後の日』の一場面をモチーフにした彫像で、燃え盛るポンペイの街から脱出するため、盲目の少女が仲間を率いる様子が表現されている。
ニディアの像に対して、彼は次のようにコメントしている。「コロナ禍が長引く中、多くの家庭、特に障がいを持つ子どものいる家庭の窮状がますます深刻になっている。ユニセフの親善大使として、僕は常に子どもたちの幸福を願ってきた。障がいを持つ子どもたちへの支援に対する社会的関心を、さらに高めることに貢献できたら嬉しい」
SUGA
Photo: Met Collection
SUGA(シュガ)のストリートギャラリー会場は、ロサンゼルスのドルビー・シアター。「僕らにとってとても重要な場所。世界的なアーティストになるという夢が叶うきっかけとなったのが、まさにここなんだ」と彼は書いている。
SUGAのギャラリーに並ぶのは、メンバーたちとの思い出に関する作品や、創作活動に没頭する人物が描かれている作品だ。たとえば、フレデリック・レミントンの馬にまたがるカウボーイの像《Broncho Buster(ブロンコ・バスター)》(1895)は、BTSのメンバーがみんなでカウボーイブーツを履いて砂漠で踊った時のことを思い出させるという。
ヴェンセスラウス・ホラーの版画《Concert of cherubs on Earth(地上における天使たちのコンサート)》(1646)には、7人の天使が合奏している様子が描かれている。「メンバーが7人いて、まるでBTSみたいだ。そして、僕らのグループを言い表すのに、『地上における天使たちのコンサート』を超える表現ってある?」とSUGAは書いている。
JIN
Photo: Royal Museums of Fine Arts of Belgium, Brussels
JIN(ジン)のストリートギャラリーはサンパウロにある。「ここはBTSのお気に入りの街の1つ。みんな、ここのポジティブなエネルギーが大好きなんだ。少し気分が落ち込んだときは、いつもサンパウロのことを思い浮かべている」と彼はコメントしている。
彼もまた、ミュージシャンやダンサーとしての自身の活動を思い起こさせる作品を選んでいる。また、BTSのミュージックビデオに登場するピーテル・ブリューゲル(父)の《イカロスの墜落のある風景》(1560)や、同じくピーテル・ブリューゲル(父)の《反逆天使の墜落》(1562)なども見られる。
BTSの最もハンサムなメンバーとされるJINは、アントニオ・コラディーニの彫刻《Adonis(アドニス)》(1723)もセレクションの中に入れている。「誰もが僕のことをハンサムだと言う。このセクシーなアドニスのようにね。でも僕は、ただのハンサムじゃない。“ワールドワイド・ハンサム”って呼ばれているんだ」
JUNG KOOK
Photo: Met Collection
JUNG KOOK(ジョングク)は、BTSの所属事務所があったソウルのチュングビルの周りをストリートギャラリーにした。「2013年のデビュー以来、このビルは僕らにとって第2の家のような場所だった。あれから本当に長い道のりを歩んできた」と彼は書いている。
彼がお気に入りの作品の1つに選んだのは、ハリエット・グッドヒュー・ホズマーの彫刻《Clasped Hands of Robert and Elizabeth Barrett Browning(ロバートとエリザベス・バレット・ブラウニングの握られた手)》(1853)。ほかのメンバーから自分が受けてきた支援を思い起こさせるのが、選んだ理由だという。「メンバーのなかで最年少の僕は、BTSとともに成長してきた。さまざまな困難や試練があった時、みんなは僕の手を握ってくれた。いつも支え合ってきたからこそ、ここまで来れたと心から思っている」とJUNG KOOKは書いている。
また、ドラムをたたくのが好きな彼のギャラリーには、ボウ磁器工房の磁器人形《Drummer(ドラマー)》(1765年頃)も展示されている。(翻訳:野澤朋代)
※本記事は、米国版ARTnewsに2022年7月12日に掲載されました。元記事はこちら。