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アートで巡るフランス──貴重な個人コレクションに出合えるアート財団15選

世界にはさまざまなアート財団があるが、中でもフランスには、個性的な財団とその美術館が数多く存在する。US版ARTnewsが選んだ15のフランスの財団を紹介しよう。

リュマ財団が運営するリュマ・アルルのタワーはフランク・ゲーリーの設計。Photo: Gerard Julien/AFP via Getty Images

アート財団の設立理由はさまざまで、個人、家族、法人に税制上の優遇措置がもたらされるという現実面以外にも、貴重なコレクションを保存し、何らかの価値観を広め、コレクターの記憶を後世に伝えるといった目的がある。いずれにしても、財団の美術館やアートスペースを通じて、個人が所有する美術品のコレクションを目にすることができるのは、アートファンにとってうれしい話。特に、豊かな美術の歴史を持ち、熱心なコレクターが多いフランスには、個性的な財団が数多く存在する。その中から選りすぐった15の財団と、それぞれの特徴や展示作品をまとめた。

1. レア・エ・ナポレオン・ブルキアン財団(Fondation Léa et Napoléon Bullukian) 所在地:リヨン

フランス・リヨンのレア・エ・ナポレオン・ブルキアン財団。Photo: Fondation Léa et Napoléon Bullukian

この財団を設立したナポレオン・ブルキアンは、波乱万丈の人生を送った人物。1915年のアルメニア人虐殺で両親を失い、強制移住させられてクルド人部族の奴隷となったが、そこから逃亡して孤児院で育てられた。やがてフランスに渡った彼は、自分と同様にアートへの情熱を持つリア・ヴァイヤと出会い、結婚。リヨンで建設会社を立ち上げ、第2次世界大戦後は事業の多角化を図り、最終的にはプラスチック製造業に絞ってビジネスを拡大した。亡くなる前年の1983年、フランス財団(Fondation de France)に遺産を委ね、医学研究やアルメニア人コミュニティ、若手アーティストを支援する私立財団の設立を託した。

そうして1年後の1984年、リヨンの60平方メートルの小さなスペースに、ブルキアンのコレクションを展示するアートセンター、レア・エ・ナポレオン・ブルキアン財団が設立された。ジャン・クーティ、ジャン・フサロ、ルネ・シャンクラン、モーリス・モンテといったリヨン派のアーティストの作品のほか、ジェレミー・ゴベ、リオネル・サバテなど、ブルキアンの死後に加わった作品も展示されている。2019年には、展示スペースに450平方メートルもの大幅増築が施され、広々とした庭園が一般に公開された。

2. CAB財団(Fondation CAB) 所在地:サン=ポール=ド=ヴァンス

南フランスのニースに近いサン=ポール=ド=ヴァンスにあるCAB財団。Photo: Fondation CAB

ベルギーのアートコレクター、ユベール・ボネが2012年にブリュッセルで設立したCAB財団は、ミニマリズムコンセプチュアル・アートへの理解を促すことを目的に、活発な文化プログラムを展開している。2年前には、南フランスのサン=ポール=ド=ヴァンスにある1950年代のモダニズム建築をインテリアデザイナーのシャルル・ザナが改装し、フランス支部となる分館が設けられた。

サン=ポール=ド=ヴァンスのCAB財団には、ダイナミックな展示、アーティスト・イン・レジデンスのプログラム、充実したホスピタリティスペースなど、ベルギーの本館とは異なる特徴がある。ここでは、カール・アンドレ、リチャード・セラ、ミケランジェロ・ピストレットなど、ボネ所蔵の魅力的な作品を見ることができ、屋外の庭園にはベルナール・ヴェネ、ジョナサン・モンク、リチャード・ロングの彫刻が並ぶ。財団によると、コレクションは今後も拡充される予定だという。レストランにはシャルロット・ペリアンの家具が置かれ、4部屋のゲストルームとジャン・プルーヴェ設計の小さな家には宿泊することもできる。

3. カルミニャック財団(Fondation Carmignac) 所在地:ポルクロール島

南フランスのポルクロール島にあるカルミニャック財団。Photo: Fondation Carmignac

フランスの実業家エドゥアール・カルミニャックは、自身のアートコレクションを管理するため、一族の名前を冠した財団を2000年に設立。その13年後、まるで絵のように美しい風景が広がる地中海のポルクロール島に、約15ヘクタールのブドウ畑「ドメーヌ・ド・ラ・コートラード」を取得し、現代アートの展示施設、ヴィラ・カルミニャックを開設する構想を立てた。

島へのアクセスは、コートダジュールの港町イエールからの船に限られる。船着場からヴィラ・カルミニャックへの道を進むと、造園家ルイ・ベネシュが設計した「non-garden(非庭園)」が迎えてくれる。ここには固有種の植物が植えられ、ジャウメ・プレンサ、王克平(ワン・クーピン)、ウーゴ・ロンディノーネ、ニルス・ウド、ミケル・バルセロらによる約20点のアート作品が展示されている。バルセロによる頭がい骨のような形の彫刻《Alycastre》は、ポルクロール島に出没すると言われる神話上の生き物を思い起こさせる大型の作品だ。

夏には、エド・ルシェの金属板に描かれた大型絵画《Sea of Desire》の周辺が会場になり、映画鑑賞会やヨガ教室などの屋外アクティビティが行われる。館内に入り、ジャナイナ・メロ・ランディーニのサイトスペシフィックな作品《Ciclotrama 50(Wind)》が設置された階段を降りていくと、ブルース・ナウマンの大作《The Imaginary Sea》に出会える。

4. クレマン財団(Fondation Clément) 所在地:マルティニーク島 ル・フランソワ

フランスの海外県、マルティニーク島のル・フランソワにあるクレマン財団。Photo: Fondation Clément

クレマン財団は2005年、実業家のベルナール・アヨによってフランスの海外県マルティニーク島のル・フランソワに設立された。カリブ地域の文化や歴史遺産への認知を拡大しようという財団の活動は、歴史あるラム酒蒸留所のアビタシオン・クレマンを中心に行われている。

2016年には、リシェン&ロベール建築事務所が古い貯蔵庫を改装し、6500平方メートルのスペースに現代アートを展示する3つのギャラリーが作られた。カリブ海の歴史に関する数多くの書籍を所蔵する図書館もあり、敷地を取り囲む16ヘクタールの野外彫刻公園には、アンジェラ・ブロック、デイル・チフーリ、イェッペ・ハイン、ベルナール・ヴェネなどの作品が展示されている。

同財団は、このほか2軒のクレオール邸宅(アビタシオン・ラ・シュクルリーとアビタシオン・ペクール)の管理も行っている。どちらも2000年代に修復された歴史建築で、毎年9月のヨーロッパ文化遺産の日に限り一般公開される。

5. ハルトゥング・ベルイマン財団(Fondation Hartung Bergman) 所在地:アンティーブ

南フランス・プロヴァンス地方のアンティーブにあるハルトゥング・ベルイマン財団。Photo: Fondation Hartung Bergman

リリカル・アブストラクション運動を主導したフランス系ドイツ人アーティスト、ハンス・ハルトゥングと、ノルウェー人のイラストレーターで抽象画家のアンナ=エヴァ・ベルイマンは、パリのモンパルナス地区で1929年に出会った。1930年に結婚し、メノルカ島に移住したが、1937年に離婚。その15年後に再婚し、1960年代にアンティーブで丘の上にある2ヘクタールの敷地に家を建てた。1994年、夫妻の功績を後世に伝えるために、2人の名前を冠したハルトゥング・ベルイマン財団が設立された。アンティーブの元邸宅を利用した施設は、改装工事を経て2022年5月から一般公開されている。

土の香りがするような元邸宅は、ハルトゥングが設計とデザインの責任者とされているものの、30年前にベルイマンがメノルカ島で描いたスケッチから着想した可能性もありそうだ。部屋同士はつながっておらず、別の部屋に行くためには、まず屋外に出なければならないが、これは自然とのつながりを保とうという意図からきている。ハルトゥングとベルイマンのかつてのアトリエに展示されているのは、約1万6000点の絵画とドローイングで構成される所蔵品の一部と、企画展のための作品だ。ハルトゥングのアトリエはほぼそのまま残され、自作の車椅子が目立つように置かれている。

邸宅の上階と下階の間には、プライベートな空間とパブリックスペースが配され、約200本のオリーブの木が植えられている。パブリックスペースにはブックストアがあり、そのそばには、1973年からここで夫妻のために働いていた料理人マルセルの屋台、シェ・マルセルがある。この店が出すプロヴァンス地方の名物、ピサラディエール(玉ねぎをのせて焼いた平たいパン)は絶品だ。また、敷地内にはリノベーション済みのゲストルームが7室あり、研究者が滞在できるようになっている。

6. リュマ財団(Fondation LUMA) 所在地:アルル

リュマ財団の展示スペース、リュマ・アルルの外観。Photo: Xurxo Lobato/Getty Images

アートコレクターのマーヤ・ホフマンは、ビジュアルアート、写真、出版、ドキュメンタリー、マルチメディアアートの支援を目的に、2004年にチューリッヒでリュマ財団を設立。その活動を拡大するため、2013年にリュマ・アルルを設立した。著名なランドスケープデザイナー、バス・スメッツが設計した4.2ヘクタールの広大な庭園、パルク・デ・ザトリエ内には、プリツカー賞受賞の建築家フランク・ゲーリーの設計による高さ約56メートルのタワーがそびえ立つ。敷地内の旧ボイラー製造工場はモアッティ&リヴィエール建築事務所が、旧機械作業場と倉庫はセルドルフ建築事務所がリノベーションを行い、新しい展示スペースに生まれ変わった。

敷地内にはまた、多数のアート作品が野外展示されている。スケートボード場を模した《OooOoO》は、韓国人アーティストのク・ジョンによる作品で、夜になると燐光のような緑色に輝く。その少し先には、アートとデザインの接点について考えさせるリアム・ギリックの金属の彫刻《Orientation Platforms》や、アルルに設置されるまで一度も完全に組み立てられたことがなかったというフランツ・ヴェスト作の捻れたピンクの彫刻《Krauses Gekröse》がある。また、彫刻公園内のカフェは床全体がモザイク画になっているが、これはドイツ人アーティスト、ケルスティン・ブレッチが自身の油彩画に描いているキャラクターをモチーフとした作品《MEMORY》(2021)だ。

7. マーグ財団(Fondation Maeght) 所在地:サン=ポール=ド=ヴァンス

コートダジュールの北にあるサン=ポール=ド=ヴァンスのマーグ財団。Photo: Fondation Maeght

出版者で美術商だったエメ&マルグリット・マーグ夫妻が創設した財団は、フランス初の近現代アートに特化した財団とされる。スペインの建築家、ジュゼップ・リュイス・セルトの設計による広さ約840平方メートルの建物は1964年に完成し、落成式には当時の文化大臣アンドレ・マルローも出席した。館内には、ジョアン・ミロの作品2000点(フランス最大のコレクション)を含む1万3000点の所蔵品があり、中庭にもジョルジュ・ブラック、ピエール・タル=コート、マルク・シャガール、ポル・ビュリー、ラウル・ユバックのサイトスペシフィックなインスタレーションや、アルベルト・ジャコメッティの彫刻などが散りばめられている。

現在は、パリを拠点とするシルヴィオ・ダスキア建築事務所が指揮を執り、2024年夏の財団創立60周年を目指して約500平方メートルの増築工事が進行中だ。完成時には、アンリ・マティスピエール・ボナールの展覧会が開かれる予定になっている。

8. マーテル企業財団(Fondation d’Entreprise Martell) 所在地:コニャック

フランス南西部のコニャックにあるマーテル企業財団。Photo: Fondation d’Entreprise Martell

フランス南西部のガトブルスにあるマーテル社の伝説的なブランデーセラーを訪れることがあったら、マーテル企業財団にもぜひ足を向けてほしい。3世紀にわたりブランドのエンブレムとなっているアマツバメの看板を屋根に掲げた広さ約560平方メートルの旧ボトリング工場は、2017年にフランスのブロシェ・ラジュス・ピュイヨ建築事務所によるリノベーションが行われ、現代アートを体験できる場に生まれ変わった。

船体のようなエントランスホールは、コニャックの樽を海外に運ぶために使われていた船をイメージさせるものだ。1階は約82平方メートルの展示スペースで、2階では木工、陶芸、ガラス、紙、布の作品のワークショップをアーティストや職人たちが運営している。3階は、財団の委託で制作されたデジタルアートや多感覚体験のための施設で、4階はレセプションやプライベートイベントの会場として使われている。

現在開催中の展覧会「Almanach」(2023年12月31日まで)では、同財団創立後の5年間に行われたリサーチプログラムの結果が発表されている。このプログラムでは、地元産の素材を用いて、「強靭で公正な未来を築くための新しい方法」を探求することが目的とされた。

9. ペルノ・リカール財団(Fondation Pernod Ricard) 所在地:パリ)

パリのサン・ラザール駅近くにあるペルノ・リカール財団。Photo: Fondation Pernod Ricard

2021年に世界的酒造メーカーのペルノ・リカールは、パリのサン・ラザール駅に隣接する1万8000平方メートルの新しいグローバル本社ビル「アイランド」に移転した。ビル1階の大部分を占めるのがペルノ・リカール財団で、アートイベントを無料で開催・一般公開している。施設には、展示ギャラリー、130席の視聴覚ホール、カフェ、図書室、ブックストアなどがある。

エントランスの壁にはマチュー・メルシエによるカラフルな市松模様の作品が飾られ、隣の展示スペースでは第24回ペルノ・リカール賞の受賞アーティスト6人による展覧会「Do You Believe in Ghosts?」が10月28日まで開催されていた。また、本館ロビーには、サルバドール・ダリの巨大な絵画《La Pêche au Thon》が飾られている。

10. フランソワ・シュナイダー財団(Fondation François Schneider) 所在地:ヴァットヴィラー

フランス東部のヴァットヴィラーにあるフランソワ・シュナイダー財団。Photo: Fondation François Schneider

2000年に設立されたフランソワ・シュナイダー財団は、フランスで唯一「水」をテーマとした財団だ。水に関連するテーマで活動する現代アーティストの支援や、ライン川沿いの複数の美術学校の学生を対象にしたアーティスト・イン・レジデンス・プログラムから巡回展の開催、出版物まで、すべてがこのテーマを中心に展開されている。

フランス東部にあるヴァットヴィラーの温泉跡地に残されていた瓶詰め工場の廃墟が、建築家ダニエル・ヴィヨットの手によって修復・拡張されたのは2013年。4階建て3300平方メートルのアートセンターに生まれ変わった建物には、展示スペースのほか、視聴覚ホール、カフェテリア、ブックストアが設けられ、屋外の彫刻庭園にはニキ・ド・サンファル、ポル・ビュリー、シルヴィ・ド・ムルヴィルらによる水に関連した作品が展示されている。このアートセンターでは、年3回の展覧会(テーマ展示、1人の現代アーティストに焦点を当てた展覧会、グループ展)などのプログラムが実施されている。

11. アルル李禹煥美術館(Lee Ufan Arles) 所在地:アルル

安藤忠雄がリノベーションを行ったアルル李禹煥美術館。Photo: Lee Ufan Arles

国際的な名声を誇る韓国人アーティスト、李禹煥の作品を集めたアルル李禹煥美術館は、ニューヨークを拠点とする李禹煥財団によって設立された。マーグ財団の前理事長ミシェル・エンリシをはじめとする友人たちの支援によって基金が設立され、2022年春にアルルの中心部にオープンしている。美術館の建物は、16世紀に古美術を扱っていた商人の邸宅だったもので、プリツカー賞受賞者の建築家、安藤忠雄がリノベーションを行った。李のお気に入りの建築家である安藤は、日本の直島にある李禹煥美術館や韓国・釜山市立美術館の李禹煥スペースも手がけている。

4階建ての美術館には20を超える展示室があり、予約制で見学者を受け入れている地下の展示室には、3点のサイトスペシフィックな作品が設置されている。1階には、李の「Relatum」シリーズの2点、《Relatum 1969/2022》と《Relatum-Gravité》が展示され、これらの作品の間には、過去にこの場所で発見されたというローマ時代の胸像が置かれている。2階の展示は年代順になっており、1970年代の「From Line」シリーズ(絵の具がなくなるまで一筆書きで描かれた線が縞模様のように並んでいる)や、2000年代の「Dialogues」シリーズ(近年はより深い波動を伝える波線で描かれている)などを見ることができる。さらに、この建物に元々あった装飾や暖炉が保存されている最上階は、多目的スペースとしてミーティングやカンファレンス、レセプション、コンサートなどに使われる。李は、今後、自分の個人コレクションを常設展示に加えたいと語っている。

12. ヴァザルリ財団(Fondation Vasarely) 所在地:エクス=アン=プロヴァンス

南フランスのエクス=アン=プロヴァンスにあるヴァザルリ財団。Photo: Nicolas Tucat/AFP via Getty Images

ヴァザルリ財団は、オプ・アート運動の先駆者と言われるハンガリー出身のアーティスト、ヴィクトル・ヴァザルリによって設立された。ヴァザルリは、財団の美術館建設地をエクス=アン=プロヴァンスのジャ・ド・ブーファンに決める前、「どこに財団の本部を設けるべきか、20年以上も頭を悩ませていた」という。ちなみに、ジャ・ド・ブーファンは、ヴァザルリの憧れの画家であるポール・セザンヌが家族とともに住んでいた場所だ。最終的にエクス=アン=プロヴァンスを選んだことについて、ヴァザルリはこう説明している。「豊かな歴史があり、芸術と建築に関連する活動が活発に行われていて、有名な音楽祭の開催地でもあり、高速道路網が発達しているからだ。それに、セザンヌを敬愛しているからでもある」

1976年に完成した白と黒の建物は16個の六角形のモジュールで構成されているが、六角形はヴァザルリが1930年に移住したフランスの国土がほぼ六角形であることからきている。ヴァザルリの構想によれば、約5000平方メートルの美術館は「光と運動の彫刻」であり、建築と美術が融合した作品でもある。1階には、天井高11メートルの六角形の展示室が7つある。各展示室の6つの壁に1つずつ、合計42点のヴァザルリの大型作品が展示されており、特にタペストリーが目を引く。上階は、オフィスと企画展のスペースとして使われている。

13. ヴェネ財団(Venet Foundation) 所在地:ル・ミュイ

南フランスのル・ミュイにあるヴェネ財団。Photo: WireImage via Getty Images

南フランスのヴァール県にあるル・ミュイ。フランスのミクストメディア・アーティスト、ベルナール・ヴェネは、ここに18世紀に建てられた工場と製粉所を含む4ヘクタールの敷地を購入し、住居と仕事場、そして自分が集めたミニマリスト・アートとコンセプチュアル・アートのコレクションを置く場所を作った。ヴェネはこの場所を「変装した自画像」「古い建築、産業建築、現代建築が出会う総合芸術作品」と表現している。2014年以来、ヴェネ財団(ヴェネが50年以上アメリカに住んでいたため、「ヴェネ・ファンデーション」という名称も、管理体制もアメリカ式)として毎年夏に一般公開している。

見学の中心となるのは屋外に設けられた彫刻庭園で、ラリー・ベル、ドナルド・ジャッド、リチャード・ロング、トニー・クラッグ、ソル・ルウィット、ロバート・モリス、リチャード・ディーコン、アニッシュ・カプーアらによる作品が点在している。その中でも中心となるのが、2014年に建てられたジェームズ・タレルの礼拝堂のような作品《Skyspace》で、内部にはフランク・ステラの作品が展示されている。アートギャラリーでは企画展を開催しており、これまで、ジャン・ティンゲリー、フレッド・サンドバック、イヴ・クライン、クロード・ヴィアラット、エンリコ・ナヴァラの作品を展示してきた。2024年からは、ヴェネの3Dアバターが案内役として登場し、来場者の質問に答える予定だ。

14. ヴィラ・ダトリス財団(Fondation Villa Datris) 所在地:リル=シュル=ラ=ソルグ

南フランスのアヴィニョンに近いリル=シュル=ラ=ソルグのヴィラ・ダトリス財団。Photo: Fondation Villa Datris

アートパトロンでコレクターのダニエル・カペル=マルコヴィッチと建築家のトリスタン・フォーティンは、お互いを愛し、南フランスを愛し、ありとあらゆる形や様式の彫刻を愛している。2人は、アートに対する情熱をできるだけ多くの人々と分かち合うために、教育的であると同時に楽しめる展覧会を開きたいと考えた。2010年、南フランス・ヴォークリューズ地方の町、リル=シュル=ラ=ソルグの中心にある約500平方メートルの邸宅を訪れた彼らは、ピンクのファサードを持つこの19世紀の邸宅で自分たちの夢が実現する姿を思い描いたという。

その2年後の2012年、ヴィラ・ダトリス(「ダトリス(Datris)」は2人の名前、ダニエルとトリスタンを組み合わせた造語)が、毎年テーマを決めて展示を入れ替える私設のアートセンターとしてオープン。以来、取り上げたアーティストは800人を超える。たとえば、2023年5月19日〜11月1日に開催された「Movement and Light #2」では、貸与作品とマルコヴィッチの個人コレクションが組み合わされ、ミゲル・シュヴァリエ、フリオ・レ・パルク、ジャン=ミシェル・オトニエル、ジャン・ティンゲリー、アン・チョルヒョンらの作品が4フロアにわたって展示された。

15. ルイ・ヴィトン財団(Fondation Louis Vuitton) 所在地:パリ

パリのブローニュの森に建つフォンダシオン・ルイ・ヴィトン。Photo: Hufton+Crow/View Pictures/Universal Images Group via Getty Images

2012年、LVMHグループのCEOベルナール・アルノーは、芸術や文化、歴史的遺産への援助を目的にルイ・ヴィトン財団を設立。その2年後、ブローニュの森の中心にあるレジャーパーク、ジャルダン・ダクリマタシオンの近くに財団の美術館フォンダシオン・ルイ・ヴィトンが誕生した。世界的建築家のフランク・ゲーリーが設計した建物は、12枚のガラスでできた「帆」と1万9000枚の繊維強化コンクリートのパネルで構成され、大型の帆船のような威厳あるたたずまいを見せている(ただし、雲に似ているという人も、氷山やカブトムシにたとえる人もいる)。

この堂々たるガラスの建築の中には、ル・コルビュジエがロンシャンに建てた礼拝堂へのオマージュとされる天井高17メートルの展示室を含む11の展示室がある。フォンダシオン・ルイ・ヴィトンでは、現代アートの膨大なコレクションを公開するとともに、美術史上の重要アーティストに焦点を当てた意欲的な展覧会を開催。開館以来、ロシアのコレクターであるセルゲイ・シチューキンやミハイル&イワン・モロゾフ兄弟のコレクション展のほか、エゴン・シーレ、ジャン=ミシェル・バスキアシモン・アンタイシンディ・シャーマンらの個展が行われ、現在はマーク・ロスコ展が開かれている(2024年4月まで)。

イザ・ゲンツケンがステンレスで制作した高さ10メートルものバラの彫刻がエントランスホールにそびえ、オラファー・エリアソンのLEDライトとガラスパネルを使ったインスタレーション《Inside the Horizon》が光り輝き、エルズワース・ケリーの《Colored Panels(Red, Yellow, Blue, Green, Violet)》がオーディトリアムを飾るなど、財団が所蔵する数々の印象的な作品にも出会えるこの場所は、パリの中心部から少し離れているが、足を運んで期待を裏切られることはないだろう。(翻訳:清水玲奈)

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