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  • 2024.01.11

やんツー、冨安由真ら5人が受賞! TERRADA ART AWARD 2023ファイナリスト展がスタート

寺田倉庫が新進アーティストの支援を目的に開催する現代アートアワード、「TERRADA ART AWARD」。その2023年度のファイナリスト5人による展覧会が、寺田倉庫 G3-6Fでスタートした。

Photo: Yusuke Suzuki (USKfoto)

2014年に始動し、2021年度からは2年に1度開催されているTERRADA ART AWARD。応募対象は、絵画等の平面、写真、立体、テキスタイル、映像、デジタル・メディアアート、パフォーマンスなどの身体表現、サウンドアートなど、現代アート全般に及ぶ。一次審査を経て行われる最終選考では、過去の作品はもちろんのこと、寺田倉庫が提供する空間と支援資金を使ってどんな新作に挑みたいかという「前例のないアイデア」が審査される。

2023年度の最終審査員を務めたのは、金島隆弘、神谷幸江、寺瀬由紀、真鍋大度、鷲田めるろ。今回は国内外から1025組もの応募があったが、最終的に、金(きむ)光男、冨安由真、原田裕規、村上慧(さとし)、やんツーの5人がファイナリストに選ばれた。彼らの受賞を祝うファイナリスト展では、今後のさらなる活躍が期待されるアーティストたちのブレイクスルーとなり得る新しい挑戦を目撃することができる。

選出にあたって寺瀬は、「応募作品はいずれも質が高く、選考は最後まで迷った。作品にメッセージを落とし込む力がある作家を選んだ」、神谷は「応募作品は『私』という一人称によるものが多く、日本社会のメタファーのように感じた。『個人的なことは政治的なこと』という第2波フェミニズム運動の言葉があるように、『私』という殻を突き破り、世界とつながっていくことの重要性を改めて実感した」とコメントした。

以下、各審査員によるコメントとともに、受賞アーティストたちの展示を紹介する。

金光男(鷲田めるろ賞)

Artwork by Mitsuo Kim, Photo by Yusuke Suzuki (USKfoto)

金光男は、熱源を備えた金属製の展示台に、ロウで作られた赤いカヌーが時間とともにゆっくりと溶けて崩れていくインスタレーションを展示した。壁に並べられた平面作品はロウの上にシルクスクリーンで載せられ、所々崩れている。溶けゆくカヌーは、昨今の戦争などによる分断を表現するほか、新しい世界への旅立ちや平和と平穏への希望を込めている。鷲田めるろは「韓国にルーツを持つ金にとって、平面作品に描かれた金網は隔てるもの(38度線)、カヌーはつなぐものを表現している。これまでロウを使った作品を制作してきたが、ボートを丸ごとロウで作り上げるのは初めて」とチャレンジを称えた。

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冨安由真(金島隆弘賞)

Artwork by Yuma Tomiyasu, Photo by Yusuke Suzuki (USKfoto)

冨安由真は倉庫というロケーションから、「無機質」をテーマに据えた。部屋を作り、その中に無機質なオフィスの一室を再現した、マジックミラー構造の小部屋を作った。私たちが小部屋の中を見られる時、反対側からは私たちの姿は見えない。部屋のライトが明滅し、小部屋の中を眺めていたと思ったら、突然自分の姿が映し出される。冨安がプログラムした4分10秒の間で、見ることと見られることの概念に揺さぶりがかけられる。金島隆弘は「1人で体験してみたが、少し怖いような感覚があった。作品を作る以上の視点を持ち、表現をしているというのが伝わった」と話す。

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原田裕規(神谷幸江賞)

Artwork by Yuki Harada, Photo by Katsura Muramatsu

原田裕規は、かつて日本から各地に渡った移民をテーマに、ハワイなどで何年にもわたるリサーチを続け、その成果を作品にした。移民は、他文化・他言語との接触の中で「ピジン語」に代表されるトランスナショナルな文化を生み出してきた。移民が経験したプロセスを、原田自身と日系アメリカ人が声を重ねる「声の重なり」と、自身の表情をハワイの日系アメリカ人をモデルに作成したCGデジタルヒューマンにトラッキングさせる「感情の重なり」によって再演する。神谷幸江は「他者の声に注意深く耳を傾け、土地の歴史や物語に触れ、それらを複合的に学んで新たな視覚言語で発信していく理解と表現のプロセスは、現世と彼岸をつなげる能の手法に触発されているようにもうかがえる」と評価する。

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村上慧(真鍋大度賞)

Artwork by Satoshi Murakami, Photo by Yusuke Suzuki (USKfoto)

村上慧は、舞台上で書き割りの「茂み」が話しかけてくる夢を見た経験と、認知症気味の村上の祖父が、廊下にあるコートハンガーを人だと思っていることが発覚したことから生まれたインスタレーション作品を発表する。白い空間には、黒で描かれた電柱、自転車やタイヤが設置されている。それらモノたちにはモニターとスピーカーが取り付けられており、時折モノ同士が会話を繰り広げる。真鍋大度は「日常の風景に独特な方法で変化を加えることによって、見慣れた世界に対する新しい視点と発見を提供し、日常の美しさや問題を再発見させてくれる」と語る。

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やんツー(寺瀬由紀賞)

Artwork by yang02, Photo by Yusuke Suzuki (USKfoto)

やんツーの作品は、壁にドローイングをする装置、棚にある石膏像などのオブジェを運ぶ装置、それらを鑑賞するセグウェイの3つの装置からなるインスタレーションだ。装置たちは会話をしながら、それぞれの任務をこなす。上演時間は30分間で、それ以外はブルーシートで覆われる(上演は平日17時~、土日は15時と17時~)。寺瀬由紀は「アートそのものが持つ空虚さをシニカルなユーモアで斬りつつも、その一方でアワードにチャレンジしてみたりする。この矛盾との絶妙な混在こそが、やんツーの魅力。もっと観客を迷わせて、さらに良い作品を制作してほしい」とエールを送る。

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TERRADA ART AWARD 2023 ファイナリスト展
会期:1月10日(水)~ 1月28日(日)
会場:寺田倉庫 G3-6F(東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G 号)
時間:11:00 ~ 18:00(入場は30分前まで)

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