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2022年ヴェネチア・ビエンナーレを数字で解析。注目は女性作家と20世紀の前衛芸術家

4月に開幕する「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」は、先頃メイン会場の参加アーティストを発表。チェチリア・アレマーニがキュレーションする今回のメイン会場の展示はシュルレアリスムの画家、レオノーラ・キャリントンの一連のドローイングや絵本にちなんで「The Milk of Dreams(ミルク・オブ・ドリームス)」と題され、シュルレアリスムをはじめとする20世紀の前衛運動に参加したアーティストの作品が数多く出展される。また、女性アーティストの比率が非常に高く、男性は21人のみというこれまでにない構成になっている。ARTnewsでは、今回のビエンナーレの特徴を物語る数字を調べ、以下にまとめた。

2022年のヴェネチア・ビエンナーレは4月下旬に開幕する Courtesy Venice Biennale

公式発表されたアーティスト数は213人(組)だが、3人が公式アーティストのコラボレーターとして含まれ、二人組ユニット1組が単独のアーティストとして扱われている。下記のデータでは、この4人を集計に加えている。

213今年のヴェネチア・ビエンナーレのメイン会場に参加するアーティストの正式な数は213人(組)で、2019年の83人(組)から大幅増となった(なお、2019年のメイン会場は2カ所あり、同じアーティストがそれぞれの場所で別の作品を展示する構成だった)。今回の参加アーティスト数は、2005年以降で最多となる。

21男性アーティスト数は21人。これまで、ヴェネチア・ビエンナーレではジェンダーの不均衡があった。キュレーターのマウラ・ライリーは、著書『Curatorial Activism(キュレーションによるアクティビズム)』の中で、この問題を「ひどい状況」と表現し、2017年のヴェネチア・ビエンナーレは女性アーティストの割合が35%であったことを指摘している。これに対し、今年のビエンナーレは、女性またはジェンダー・ノンコンフォーミング(伝統的な性の規範にとらわれない)のアーティストが大多数を占める。また、100人弱の物故アーティストに限っても、やはり女性の比率が高く、男性は7人のみ。

95213人(組)のアーティスト中、故人は95人で全体の44%と、異例に高い割合となっている。故人の大半は世界大恐慌以前の生まれだが、トワイヤン、テクラ・トファーノ、オバルタチ、バヤ・マヒエディン、サフィーヤ・ファルハートら、多くのアーティストが美術史に貢献していながらその功績が認知されていない。

2320世紀前半に欧米で前衛運動に関わったアーティストの割合は23%。ヴェネチア・ビエンナーレのメイン会場に故人の作品が展示されることは珍しくないが、今回の数字は突出している。アレマーニはその理由を「タイムカプセル」と呼び、歴史的な作品を集めて現代のアーティストにインスピレーションを与えるような展示をするためだと説明している。

180ビエンナーレのメイン会場に初出展するアーティストは180人。

61存命のアーティストのうち、61人がヨーロッパを拠点としている。都市別で最も多いのがロンドン(11人)、次いでベルリン(10人)、アムステルダム(7人)、パリ(5人)。さらにイタリア国内の都市では計10人のアーティストが活動している。

375故人のうち、生年が最も古いマリア・ジビーラ・メーリアンが現在生きていたとしたら今年375歳になる。1647年、当時神聖ローマ帝国の一部だったフランクフルトで生まれた博物学者・生物画家で、1717年にアムステルダムで69歳の生涯を閉じた。なお、存命アーティストの最高齢はパリ在住のベラ・モルナール。1924年ブダペスト生まれで、今年1月に98歳になった。

60ミレニアル世代(1980〜95年前後生まれ)のアーティストは60人。ウー・ツァン、クリスティーナ・クアレス、エル・ペレス、ジェイド・ファドジュティミ、故ノア・デイビスらが含まれる。この人数は、2019年開催時のちょうど2倍にあたる。なお、最年少は、1995年ヨハネスブルグ生まれのシムニクエ・ブルング。Z世代(1990年代後半~2000年代生まれ)のアーティストがメイン会場に登場するのは今回が初めてではない。存命アーティストの中で次に多いのはX世代(1965〜79年生まれ)の30人となっている。

5ギャラリー大手のデビッド・ツヴィルナー(ロンドン)所属のアーティストから、ルース・アサワ、ノア・デイビス、バーバラ・クルーガー、アンドラ・ウルスタ、ポルシャ・ズババヘラの5人が選ばれた。同じくメガギャラリーであるハウザー&ワース(ロンドン)からはクリスティーナ・クアレス、工藤哲巳、ゾフィー・トイバー=アルプの3人の作品が展示される(昨年ハウザー&ワースからニューヨークのマシュー・マークス・ギャラリーに移籍したばかりのシモン・リーも含めれば4人になる)。ただし、ギャラリーの規模を考慮すればこの数字は必ずしも多いとは言えない。注目すべきなのは、小規模ながら強い影響力を持つJTTギャラリーニューヨーク)で、今年のビエンナーレにはセイブル・エリス・スミス、ジャミアン・ジュリアーノ=ヴィラーニ、エレーヌ・キャメロン=ウィアーの3人が参加。これは同ギャラリーの実質的な所属アーティストのほぼ5人に1人に相当する。アンテナ・スペース香港)からの出展は、ドラ・ブドール、アリソン・カッツ、ミレ・リー、ウー・ツァンの4人で、所属アーティストの4分の1に当たる。

32米国在住アーティスト43人のうち、ニューヨークを拠点とするアーティストは32人。次に多いのはロサンゼルスの5人。

2、5、10カリブ海地域在住のアーティストは2人、アフリカ5人、アジアは10人が選ばれた。カリブ海地域に拠点を置くアーティストのうち、フランツ・ゼフィリンとマーランド・コンスタンはハイチのポルトープランス在住。プエルトリコ、ドミニカ、ジャマイカ、バハマ、またそれ以外の島に在住するアーティストは含まれていない。アフリカを拠点とする5人のうち3人(ブロンウィン・カッツ、シムニクエ・ブルング、イグシャーン・アダムス)は南アフリカ在住で、ポルシャ・ズババヘラはジンバブエのハラレ、エリアス・シメはエチオピアのアディスアベバを拠点としている。

37ゾフィー・トイバー=アルプ、ハンナ・ヘッヒ、ソニア・ドロネー、クロード・カアン、オーガスタ・サベージら、19世紀後半に生まれたアーティストは37人。

5今回のビエンナーレの企画中に亡くなったアーティストは5人。2021年にはジャイダー・エスベル、オーゲ・ガウプが、2020年にはカアリ・アップソン、イルゼ・ガルニエ、池田龍雄が逝去した。

1今年ドイツで開かれるドクメンタ15にも選ばれたアーティストは人。今年はいずれも世界的な美術展であるヴェネチア・ビエンナーレとドクメンタが同時に開かれるという稀有な年になった。両方の展示に参加するのは、ソ連崩壊後のウズベキスタンの都市タシケントで育った映像作家、サオダット・イズマイロボ。

3.5ヴェネチア・ビエンナーレの数週間前に開催されるホイットニー・ビエンナーレとの比較では、ヴェネチアの規模は3.5倍。ホイットニー・ビエンナーレでは、キュレーターのデビッド・ブレスリンとエイドリアン・エドワーズが63人のアーティストを選んだが、そのうちヴェネチア・ビエンナーレにも参加するアーティストは、セイブル・エリス・スミスとトッシュ・バスコのユニット、ムーブド・バイ・ザ・モーションの一員として参加するウー・ツァンの2人だ。

7ワンネームで活動しているアーティストは7人。そのうち故人は、ベネデッタ(1897〜1977)、ダダマイノ(1930〜2004)、ナジャ(1902〜1941)、オバルタチ(1894〜1985)、ラシルド(1860〜1953)、トワイヤン(1902〜1980)の6人。残る1人は存命のアーティスト、トルマリン(1983年生まれ)。

3ヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示にアンドラ・ウルスタの作品が展示されるのは今回が3回目。また、ウルスタは前回から2回連続での出展となる。

2今回、シモン・リーの作品を見ることができるのは2カ所。一つはメイン会場で、もう一つは米国館となる。(翻訳:清水玲奈)

※本記事は、米国版ARTnewsに2022年2月4日に掲載されました。元記事はこちら

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