古代ギリシャのエリートは「隕石の指輪」を愛用していた? 富裕層の墓から「宇宙由来」の鉄を検出

古代ギリシャ時代の遺跡から出土した指輪に、隕石由来の鉄が使われていた可能性が高いことが最新研究で明らかになった。希少な「天空の金属」は、約3800~3000年前のエリート層に珍重されていたとみられる。

隕石由来の鉄が含まれていると思われる指輪。Photo: Gounelle & Mantzourani

鉄の製錬が広く普及する以前につくられた古代ギリシャ時代の指輪に、隕石由来の鉄が使われていた可能性が高いことが、新たな研究で明らかになった。考古学・文化遺産情報サイトHeritageDailyが伝えた。

研究を行ったのは、フランス国立自然史博物館に所属する宇宙物理学者・地球化学者のマチュー・グネルと、アテネ大学の考古学者エレニ・マンツラニ。研究チームは、現在のギリシャにあたる地域から出土した100点以上の遺物の化学組成を調査した。なかでも重点的に分析したのは、約3800~3000年前の青銅器時代にさかのぼる鉄製品91点で、主に指輪や腕輪、ナイフなどだった。

分析には、遺物から試料を採取せずに金属の化学組成を調べられる携帯型蛍光X線分析装置を使用。その結果、13点から高濃度のニッケルが検出された。鉄隕石には一般に多くのニッケルが含まれるため、これらは隕石由来の鉄を使ってつくられた可能性があるという。

富裕層の指輪から隕石の成分

興味深いことに、該当する13点は全て指輪またはその断片だった。なかには金や銀などを組み合わせた豪華なものもある。そのほとんどが、紀元前17世紀頃から紀元前12世紀頃にかけて、ギリシャ本土を中心に栄えた青銅器時代の文明であるミケーネ文明の主要遺跡にある富裕層や権力者のトロス墓(円形の石室墓)や横穴式墳墓から出土している。

本研究で分析された遺物の一部。赤い点が付いているものは、隕石由来の鉄を含んでいる可能性が高い。Photo: Gounelle & Mantzourani

隕石由来の鉄製指輪が裕福な人々の墓に集中していることから、この素材は大きな社会的意味を持っていたと考えられる。指輪は、権力や富、身分を目に見えるかたちで示す象徴として機能していた可能性がある。

青銅器時代には、地上の鉱石から鉄を取り出す技術がまだ十分に普及していなかった。一方、鉄隕石には、地球へ落下した時点ですでに金属状態の鉄が含まれている。そのため、鉱石から鉄を抽出する高度な高温製錬技術がなくても、加工できたとみられる。しかし、隕石は極めて入手しにくい素材であり、高い価値を持っていたと考えられる。その珍しい性質に加え、当時の人々が文字通り空から落ちてきたものだと認識していたならば、象徴的あるいは儀礼的な意味も帯びていただろう。

エジプトが隕石の「産地」だった?

ただし、ギリシャで使われた隕石由来の鉄が、どこからもたらされたのかは分かっていない。比較的湿潤なギリシャでは隕石の腐食が進みやすいうえ、この地域に落下する隕石の多くは地中海に沈んでしまう。このため研究チームは、指輪の材料が国外から持ち込まれた可能性を指摘している。

供給地の候補のひとつがエジプトだ。乾燥した砂漠では隕石が保存されやすく、発見も容易になる。青銅器時代にはエジプトとエーゲ海地域の間に広範な交流があったことから、その交易網を通じて、希少な素材がミノア文明やミケーネ文明のエリート層にもたらされた可能性がある。ただし、エジプト由来であることを示す直接的な証拠は見つかっていない。

隕石由来の鉄製指輪は、ミケーネ文明が栄えた後期ヘラディック期(ギリシャ本土における青銅器時代後期)に、とりわけ広まったとみられる。しかし紀元前12~11世紀頃になると、ミケーネの宮殿社会が崩壊し、通常の鉄生産が普及し始めるのとほぼ同時に、こうした指輪をつくる伝統も衰退した。

なぜこの宝飾品が好まれなくなったのか、正確な理由は分かっていない。青銅器時代末期の大規模な政治的・文化的混乱が影響した可能性がある。また、鉄鉱石の製錬技術が広まるにつれて鉄そのものが希少性を失い、エリートの装身具にふさわしい特別な素材とみなされなくなったとも考えられる。

学術誌「Journal of Archaeological Science」に掲載された論文によると、今回の調査によって、高濃度のニッケルを含む鉄製品が確認された東地中海地域の遺跡数は、従来の2倍以上に増えたという。鉄が文明を支える身近な素材となる以前、地球外からもたらされた金属は、青銅器時代のギリシャで富や権力と結びついた特別な存在だったのかもしれない。

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