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世界のラグジュアリーアートホテル25選。モネゆかりのフランス港町から直島まで

日本でもアートホテルが話題になっているが、世界には数多くのラグジュアリーなアートホテルがある。その中から、25のデスティネーションを厳選して紹介しよう。

南フランスのサン=ポール=ド=ヴァンスにあるラ・コロンブ・ドール。Photo: JEAN-MARC ZAORSKI/GAMMA-RAPHO VIA GETTY IMAGES

美食や癒し、レクリエーションのみならず、アートやデザインに触れ、幅広い体験ができるラグジュアリーホテルは小宇宙と言ってもいい存在だ。今や、そうしたホテルそのものが旅の目的になる。

実際、世界の一流ホテルの多くに、期間限定のギャラリーや恒久的なアートスペースが設けられるようになった。特定のクリエイターの作品を展示する場を作ったり、一流ギャラリーに依頼してパブリックエリアで展覧会を開催したり、中には、熱心なアートコレクターであるオーナーが、新たな作品を手に入れるたびに自らのホテルに飾って披露することもある。

また、アートがDNAに刻まれているようなホテルもある。たとえば、フランス・ノルマンディー地方の港町、オンフルールにあるラ・フェルム・サン・シメオンはモネコローも利用した宿で、うれしいことに2人は作品の一部をそこに残してくれた。コートダジュールに近いラ・コロンブ・ドールにも、ピカソカルダーミロの作品が残されている。

以下、アートファンならきっと心惹かれる25のホテルをリストアップした。

1. ル・ネグレスコ(Le Negresco) 所在地:ニース(フランス)

ニースのランドマークになっているル・ネグレスコ。Photo; Richard Baker/In Pictures via Getty Images

1913年に創立されたル・ネグレスコは、印象的なピンクのドームでニースのランドマークにもなっているホテルだ。ソフィア・ローレンとポール・ニューマンが共演した往年の名作映画『レディ L』(1965)から、コリン・ファースとエマ・ストーンが共演したウディ・アレン監督の『マジック・イン・ムーンライト』(2014)まで、30本あまりの映画の舞台になっている。そして、1957年にオーナーとなったジャンヌ・オジエによって美術館のようなホテルに変貌を遂げた。とはいえ、ホテル側はその見方を歓迎していないようで、ホテルの運営に関わるある人物は、「ル・ネグレスコは何よりもまず、ホスピタリティと活気にあふれた満ちた場所ですから、美術館と呼ばれるのはちょっと違うように思います」と、US版ARTnewsに語った。

そうは言っても、海辺沿いの目抜き通り、プロムナード・デ・ザングレに面したネグレスコの入り口では、カラフルなジャケットを着たトランペット奏者に目を奪われずにはいられない。これは、ニキ・ド・サンファルがマイルス・デイヴィスの肖像として制作した彫刻だ。その隣にあるのは、ミリアム・ド・ケッペルによる人魚のブロンズ像。中に入ると、イアサント・リゴーがルイ14世を描いた公式肖像画3点を含む約6000点の美術品に彩られた空間が広がる。

展示作品には、フランソワ・ブーシェ、ジャン・コクトーマルク・シャガールアンリ・マティスサルバドール・ダリなど、そうそうたるアーティストが並ぶ。ダリのリトグラフは6階に飾られているが、オーナーのマダム・オジエと親交があった彼は、飼っていたチーターを連れてふらりとル・ネグレスコに立ち寄ったというエピソードを残している。マダム・オジエが生前暮らしていた最上階は、2024年末から2025年初めまでに通常客室に改装されるほか、2023年末には約20点のオリジナルアート作品が飾られたスパのオープンが予定されている。

ル・ネグレスコ(Le Negresco)

2. ラ・フェルム・サン・シメオン(La Ferme Saint Siméon) 所在地:オンフルール(フランス)

フランス・ノルマンディー地方の港町、オンフルールにあるラ・フェルム・サン・シメオン。Photo: Wikimedia Commons

世界の一流ホテル・レストランで構成される会員組織、ルレ・エ・シャトーの名誉あるメンバーで、19世紀の主要なアーティストたちに多くのインスピレーションを与えたホテル、ラ・フェルム・サン・シメオン。過去36年間、ここでコンシェルジュを務めてきたグザヴィエ・パロンは、ホテルの歴史の生き字引だ。たとえば、19号室はジャン=バティスト・コローが、22号室はクロード・モネがアトリエとして使い、ほかにも数多くのアーティストがここに滞在したことをオーナーのトゥータンは誇りにしていたという。アーティストが残した逸話も多く、ウサギなどの食材を描いたダイニングルームの静物画は、おいしい食事へのお礼としてアドルフ=フェリックス・カルスから贈られたものだそうだ。

ラ・フェルム・サン・シメオンは、今や有名人や大統領がお忍びで訪れる隠れ家的ホテルとなった。とはいえ、アートがこのホテルの重要であることに変わりはない。絵画をこよなく愛する現オーナーのボーレン・ファミリーは、ロビー、レストラン、そしてビストロ・ラ・ブーケーヌの壁一面に絵画を飾っている。このビストロには、オークションで入手した作品や、委託制作されたモネの《荷馬車、オンフルールへの雪道》の複製画があり(本物は現在オルセー美術館が所蔵)、その向かいには、かつてホテルの庭園で水彩画を教えていた地元の画家、ジェルヴェーズによる鴨の絵が飾られている。今では画家で作家のローラン・ルロワが、宿泊客のための絵画教室やオンフルールのガイドツアーを行っている。

ラ・フェルム・サン・シメオン(La Ferme Saint Siméon)

3. ル・ロワイヤル・モンソー・ラッフルズ・パリ(Le Royal Monceau –Raffles Paris) 所在地:パリ(フランス)

ル・ロワイヤル・モンソー・ラッフルズ・パリのエントランス。Photo: Bertrand Langlois/AFP via Getty Images

ル・ロワイヤル・モンソー・ラッフルズ・パリでは、客室やパブリックスペースのいたるところに350点のアート作品が展示されている。また、大手画廊のベルエア・ファインアートが運営するギャラリー、アート・ディストリクトもある。このホテルがアートに重きを置くようになったのは、2008年にフランス人デザイナーのフィリップ・スタルクによる改装が行われて以来のことだ。スタルクは、オークションに出品されそうになっていたシャンデリアを救い出し、建物が建設された1920年代後半を彷彿とさせるアール・デコ調の木製階段の上に設置している。また、詩人や映画監督としても活動したアーティスト、ジャン・コクトーが俳優のジャン・マレに宛てた手紙の複製が展示されている部屋もある。ホテルのあちこちにあるピカソ風の陶器のランプは、南フランスのヴァロリスでピカソと共同制作をしていたフランシス・ミリチの手によるものだ。

1階に置かれたニコライ・ポリスキーによる15頭の木彫りの鹿との絶妙なコンビネーションを生み出しているのは、ホテルからの委託でスティーブン・スミスが制作した全7フロアを飾る壁画だ。シモン・シャピュ、マリー・マイヤール、ティエリー・ドレフュスなど写真家の作品も充実しており、おそらく世界で初めて設けられたアートコンシェルジュもいる。その任務についているジュリー・ウジェーヌは1階のライブラリーでホテルのゲストを迎え、館内のアート、デザイン、工芸品を解説し、それにまつわる逸話を紹介するホテルツアーを行っている。

ル・ロワイヤル・モンソー・ラッフルズ・パリ(Le Royal Monceau –Raffles Paris)

4. ヴィラ・ラ・コスト(Villa La Coste) 所在地:ル・ピュイ=サント=レパラード(フランス)

南フランスのル・ピュイ=サント=レパラードにあるヴィラ・ラ・コスト。Photo: Villa La Coste

南フランスのエクス・アン・プロヴァンスから車で20分ほどのところに、200ヘクタールのワイナリー、シャトー・ラ・コストがある。その敷地に立つのが、28のスイートルームを擁し、アートセンターが併設されたラグジュアリーホテル、ヴィラ・ラ・コスト。自然とアート、建築の融合を実現したこの地上の楽園を2004年に買収したのは、アイルランドの実業家でアートコレクターでもあるパトリック・マッキレンだ。

ヴィラ・ラ・コストのアートセンターは、安藤忠雄によるゲートを抜け、ルイーズ・ブルジョワの巨大なクモの彫刻を過ぎたところにあり、フランス語と英語のガイドツアーが毎日実施されている。ソフィ・カルアイ・ウェイウェイジャン=ミシェル・オトニエルトレイシー・エミンなどの作品約40点の中には、ラ・コスト初のサイトスペシフィック・インスタレーション、《Wall of Light》がある。作者のショーン・スカリーは、これまでもっぱら画家として活動してきたアメリカ人アーティストで、彼にとっても初めてとなる彫刻作品だ。さらに現在、ジェームズ・タレルによる新作の制作が行われている。

一方、シャトー・ラ・コストには、レンゾ・ピアノからフランク・ゲーリー、ジャン・ヌーヴェル、隈研吾まで、プリツカー賞受賞建築家の作品が勢揃いしている。2015年にフランス人建築家ジャン=ミシェル・ヴィルモットの設計で、ワインセラーを改修した最初の展示スペースが完成し、2021年にはリチャード・ロジャース・パビリオンがオープン。さらにマッキレンは、敷地内に新しいホテル、ラ・フェルム・アット・ラ・コストを2024年にオープンさせる。伝統的なデザインのこのホテルでは、ヴィラ・ラ・コストよりも利用しやすい価格帯の76室を提供する予定だが、もちろんここでもアートが重要な役割を果たすことになる。

ヴィラ・ラ・コスト(Villa La Coste)

5. ドメーヌ・デ・ゼタン(Domaine des Étangs) 所在地:マシニャック(フランス)

フランス南西部のマシニャックにあるドメーヌ・デ・ゼタン。Photo: Domaine des Étangs/Auberge Resorts

かつて封建領主の所有地だったドメーヌ・デ・ゼタンの歴史は、12世紀にさかのぼる。オーナーであるギャランス・プリマとそのファミリーは、およそ1000ヘクタールの広大な敷地で、ホスピタリティと自然、そして現代アートを見事に調和させている。ここには、彫刻や屋外インスタレーションを中心に約1000点もの作品が所蔵され、定期的にアーティストを招いて地域の対話を促す活動も行っている。

敷地内に入ると、屋外に展示されたウーゴ・ロンディノーネによる黄金に輝く輪の彫刻《The Sun》と、地面に白い大理石をリング状に並べたリチャード・ロングの大型作品《A Ring of White Marble》が出迎えてくれる。さらに進むと、イリナ・ラスキネによる5体の金色のマトリョーシカのような彫刻《Mère Veilleuse(見守る母)》が並び、李禹煥の《Relatum-L'ombre des Étoiles》やトマス・サラセーノの《Du Sol au Soleil》に出会う。2017年からは、ラ・レトリと呼ばれるギャラリースペースで企画展を実施している。キュレーターのクラウディア・ペッツォルトによると、現在開催中の展覧会「Primordial Waters」(2024年3月まで)は、アートに満ち溢れた空間で来場者が自分の生まれ育った場所とのつながりを取り戻し、自己との調和を促すものだという。

ドメーヌ・デ・ゼタン(Domaine des Étangs)

6. ラ・コロンブ・ドール(La Colombe d’Or) 所在地:サン=ポール=ド=ヴァンス(フランス)

南フランスのサン=ポール=ド=ヴァンスにあるラ・コロンブ・ドール。Photo: Wikimedia Commons

ニースからほど近いラ・コロンブ・ドールに到着すると、セザールが手がけた巨大な親指の大理石彫刻と、アルマンによるヒョウのブロンズ彫刻が対峙しつつ出迎えてくれる。ここは100年以上の歴史を誇るホテルで、往時にはアンリ・マティスがティータイムに立ち寄り、フェルナン・レジェがカラフルなセラミックの作品を設置した。そして、作品をプレゼントすることを好まなかったパブロ・ピカソが、このホテルのオーナーであるポール・ルーには、珍しく自分の作品を贈っている。そんな幸運に恵まれたルーも、寄贈品に頼っていたわけではない。彼が初期に手に入れた作品の1つは、カンヌのギャラリーで購入したジョアン・ミロの小品だった。

ポールの孫の妻にあたるダニエール・ルーは、「アレクサンダー・カルダーは、(ポールの娘である)私の義母のことが好きで、帰る前にいつも水彩画をプレゼントしていました」と回想する。実際、プールサイドに置かれたカルダーの彫刻は、ラ・コロンブ・ドールのコレクションで最も印象的な作品だ。

ラ・コロンブ・ドール(La Colombe d’Or)

7. ザ・ドルダー・グランド(The Dolder Grand) 所在地:チューリッヒ(スイス)

チューリッヒの丘の上に立つザ・ドルダー・グランド。Photo: Getty Images for IWC

リラクゼーションのためのリゾートホテルとして19世紀に建てられたスイスの有名ホテル、ザ・ドルダー・グランドは丘の上に位置している。チューリッヒ湖を見下ろし、アルプスの山々を眺めることができるこの場所には、ウィンストン・チャーチル、アルベルト・アインシュタイン、ウィリアム王子、レオナルド・ディカプリオなど、長年にわたり数多くの著名人が滞在してきた。

フェルディナント・ホドラー、ウルス・フィッシャー、アルベルト・ジャコメッティといったスイス人アーティストから、ジョアン・ミロ、ザハ・ハディドといった国際的スターまで、120点にのぼるドルダーのコレクションは多岐にわたる。たとえば、サルバドール・ダリの絵画《Femmes Métamorphosé-Les Sept Arts》や、赤いボタンを押すと回転し始める仕掛けになっているニキ・ド・サンファルとジャン・ティンゲリーの動く彫刻《Le Monde》。プールサイドにはフェルナンド・ボテロの《Woman With Fruit》があり、村上隆のユニークな彫刻《Trolls Umbrella》は、エストラゴンコーディアルとソーダを使ったこのホテルのシグネチャーカクテルと同じ名前だ。

館内のレストラン、サルツは、それ自体がアート作品のような空間だ。アーティストのロルフ・ザックスが、スイスをテーマにデザインしたもので、赤い壁に沿って走るネオンライトはアルプスの山並みを表現している。ホテルのレセプションデスクにはアートiPadが用意されており、展示されている作品を実際に見て回るときのガイド代わりになる。また、館内のあちこちに隠されたQRコードを読み取りながらの見学も可能だ。

ザ・ドルダー・グランド(The Dolder Grand)

8. ザ・ボーモント・ホテル(The Beaumont Hotel) 所在地:ロンドン(イギリス)

ロンドンのメイフェア地区にあるザ・ボーモント・ホテル。Photo: Ian West/PA Images via Getty Images

ロンドンレストラン界の大物実業家であるクリス・コービンとジェレミー・キングが手がけたザ・ボーモント・ホテルのオーナーは、2人が作り上げた架空の人物、ミスター・ボーモントという設定だ。ミスター・ボーモントが繰り広げる物語の舞台は禁酒法時代なので、1920年代から30年代のモノクロ写真(キャサリン・ヘプバーン、クラーク・ゲーブル、イーゴリ・ストラヴィンスキーのポートレート)が館内のあちこちに飾られている。元はガレージとして使われていたアール・デコ調の建物だったが、建築家ティエリー・デスポンによって2020年にリノベーションが行われ、過去へのタイムトラベルができるホテルに生まれ変わった。

西棟の上には、具象的かつキュビスム的な彫刻が置かれている。ひょっとしたら、ミスター・ボーモントの像なのかもしれない。内部には、共同創業者のコービンとキングの要望により、イギリス人アーティストのアントニー・ゴームリーが丸ごと立体作品として手がけたスイートルーム「ROOM」がある。オフィススペースを備えたサロンと、大理石張りの広々としたバスルームを抜けると、9段の階段の奥にある分厚いカーテンに突き当たる。その向こうには、安らぎの空間であるマスターベッドルームがあり、ジェームズ・タレルを思わせるユニークな天井窓が自然光と人工光の絶妙なバランスを生み出している。

これ以外にも、ボーモントには数々のアート作品が散りばめられている。1階の展示は、以前ジェレミー・キングと彼の妻が選んだ作品と、2018年にこのホテルを買収した現オーナーが追加した作品(貸与品を含む)が組み合わされているが、一番の見どころはジョシュア・レノルズの肖像画《Portrait of Mary Wordsworth, Lady Kent》(1777)だ。また、アメリカ人アーティスト、アンソニー・インスワスティのデザインで改装されたレストラン、ザ・コロニー・グリル・ルームの光り輝くようなフレスコ画は、ピエール・ボナールの色合いを思わせる。

さらに、ル・マグリット・バーでは、ルネ・マグリットの《学校教師》の複製画がレセプション・エリアに飾られている。カクテルのメニューには「Ceci n'est pas……(これは……ではない)」(*1)というページがあり、「旅の記憶」や「光の帝国」など、マグリットの傑作にちなんだ名前のオリジナルカクテルが並んでいる。


*1 マグリットの絵画《イメージの裏切り》で、パイプの絵に添えられた「Ceci n'est pas une pipe(これはパイプではない)」という言葉にちなんだもの。

ザ・ボーモント・ホテル(The Beaumont Hotel)

9. シャーロット・ストリート・ホテル(Charlotte Street Hotel) 所在地:ロンドン(イギリス)

ロンドンのソーホー地区に近いシャーロット・ストリート・ホテル。Photo: Charlotte Street Hotel/Firmdale

ファームデール・ホテルズは、熱心なアートファンのティム&キット・ケンプ夫妻がオーナーのホテルグループで、ロンドンに8軒、ニューヨークに2軒のホテルを展開している。そのうち、ロンドン・ソーホー地区のすぐ北に位置するシャーロット・ストリート・ホテルは、歯科治療器具の倉庫だった建物を2000年に趣のある52室のホテルに生まれ変わらせたものだ。活気に満ちたデザインを目指したキット・ケンプは、あるインタビューで「どの部屋もカンバスに描かれた絵のように、それぞれのストーリーを語っています」と答えている。

ホテルのパブリックスペースは、ブルームズベリー・グループ(ヴィクトリア朝の社会における慣習から脱却して新時代の文化を築こうという志を持って集った作家、芸術家、知識人たち)へのオマージュとしてデザインされ、壁には同グループや同時代のアーティストによる作品が飾られている。その中には、ニーナ・ハムネット(「ボヘミアの女王」の異名をとったアーティスト)の自画像、ロンドンで初のポスト印象派展を実現した芸術批評家・画家ロジャー・フライの立派な額に入った美しい花の絵、ヴァージニア・ウルフの実姉にあたる画家ヴァネッサ・ベルの絵画作品などがある。さらに、ホテルのレストラン、オスカーは、ブルームズベリー・グループの画家たちが用いた多様な色彩を現代に伝えている。

キット・ケンプはインスピレーションを得るためにヴィクトリア&アルバート博物館を訪れ、アレクサンダー・ホルウェグに21世紀のロンドンの日常を描いた壁画の制作を依頼した。壁画でチェスをしている人物はケンプの夫がモデルで、ラケットを持っている人物はテニス好きだったブルームズベリー・グループのダンカン・グラントをイメージしている。ロビーにはフェルナンド・ボテロの《Dog》が展示されているが、これはボテロによる巨大な猫の彫刻《Cat》と対をなすものだ。後者はファームデールがやはりロンドンで運営するザ・ソーホー・ホテルのロビーに、舌を出した姿で鎮座している。

シャーロット・ストリート・ホテル(Charlotte Street Hotel)

10. ブルームヒル・エステート(Broomhill Estate) 所在地:マディフォード(イギリス)

イギリス南西部のマディフォードにあるブルームヒル・エステート。Photo: Broomhill Estate

イギリス南西部のデヴォン州には、40ヘクタールの敷地に作られた野外彫刻美術館がある。野心的なプロジェクトのためには広大とは言えない土地だったが、オランダ人オーナーのリナス&アニエット・ファン・デ・サンデ夫妻は、1997年に抱いた構想を着実に実現させた。そのために夫妻が設立した財団は、3つの目標を掲げている。1つ目は、さまざまな分野が融合できる環境を作ること。2つ目は、新たな才能を発掘し、そのネットワークを強化してコミュニティを築き、支援すること。最後に、そこから生み出されたものを保存することだ。

現在ブルームヒル・エステートには、2つに分かれた屋外彫刻庭園に加え、7室のブルームヒル・アート・ホテルと30席のレストラン、カンバスがある。ホテルとレストランは、1913年築の邸宅を2021年にリノベーションしたものだ。川の下流の草地にある最初に作られた彫刻庭園には、ファン・デ・サンデ夫妻が2009年に創設したナショナル・スカルプチャー・プライズの受賞者であるガス・スコットウやルーシー・グレゴリーなどの作品が集められている。また、ホテルの前にある2つ目の庭園には、ロナルド・ヴェスターハウス、ジャイルズ・ペニー、ティム・ショー、キャロル・ピースらによる作品が常設展示されている。

ブルームヒル・エステート(Broomhill Estate)

11. ザ・サイロ・ホテル(The Silo Hotel) 所在地:ケープタウン(南アフリカ)

ケープタウンのザ・サイロ・ホテル。Photo: Peter Titmuss/UCG/Universal Images Group via Getty Images

イギリスの建築家トーマス・ヘザウィックの設計でケープタウンに建設されたタワービルには、2017年開館のツァイツ・アフリカ現代美術館(MOCAA)とザ・サイロ・ホテルが入っている。全28室のザ・サイロ・ホテルも、美術館同様アフリカの現代アートの振興に力を入れており、地元のギャラリーとのコラボレーションによる展覧会を定期的に開催しているほか、数多くのコミッション作品を含む約300点のコレクションを所蔵している。

ロビーの壁に彩りを添えているのは、モハウ・モディサケンによるパフォーマンスの写真やジョディ・ポールセンのフェルトのコラージュ作品だ。館内には他にもフランシス・グッドマンの絵画などが展示され、解説文や作品集がいたるところに用意されている。興味を引かれた作品があれば、ホテルのアートコンシェルジュ、イレネ・ボアベンテュラに聞けば詳しいことを教えてもらえる。

ザ・サイロ・ホテル(The Silo Hotel)

12. ミノス・ビーチ・アート・ホテル(Minos Beach Art Hotel) 所在地:クレタ島(ギリシャ)

クレタ島のミラベッロ湾に面したミノス・ビーチ・アート・ホテル。Photo: Minos Beach Art Hotel

1988年、ギリシャのギオルギ&アリステア・マミダキス財団は、ヴラシス・カニアリス、アニッシュ・カプーアなど約30人のアーティストを招き、美しいエーゲ海に囲まれたクレタ島にあるミノス・ビーチ・アート・ホテルの将来を話し合うシンポジウムを開催。これが、ギリシャの現代アートを中心とした同財団のコレクションの出発点となった。現在所蔵されている70作品のうち50点は、117のバンガローと7つのヴィラを擁する同ホテルの庭園や水中に設置されている。そのほとんどが、今年60周年を迎えるこのホテルのために特別に制作されたサイトスペシフィックな作品だ。

庭園にあるのは、地中海の空にそびえ立つリンダ・ベングリスの金属彫刻《Drawing》、カルロ・チャルリの黄色い岩の作品《Light and Shadow》、ロープで作られたエレニ・ミロナスの人型の彫刻《Haris》、テオドロスによる風車の作品《Don Quixote》などだ。また、コスタス・イオアニディスによる水中インスタレーション《Lost Ears of Agios Nikolaos》は、海に沈められた7つのコンクリート製の耳とサウンドシステムで共感覚を刺激する。

ミノス・ビーチ・アート・ホテルにほど近いミノス・パレス・ホテル&スイートにも、マミダキス財団からの委託で設置された3つのインスタレーションがある。さらに、数年後には、海岸沿いに少し北に行ったところにあるカンディア・パーク・ビレッジ・ホテルで、現代アート美術館のオープンが予定されている。

ミノス・ビーチ・アート・ホテル(Minos Beach Art Hotel)

13. ベルモンド・ラ・レジデンシア(Belmond La Residencia) 所在地:マヨルカ島(スペイン)

マヨルカ島のデイアにあるベルモンド・ラ・レジデンシア。Photo: La Residencia/Belmond

スペイン・マヨルカ島の北西海岸にあるデイアの村は、スペインの画家や彫刻家、作家、音楽家に愛されてきた場所だ。ベルモンドグループが所有する全71室の隠れ家的ホテル、ラ・レジデンシアも、修道院が所有していた土地を1984年にホテルに改装して以来、その遺産を守り続けている。

ベルモンドは今年、国際的なギャラリーであるガレリア・コンティニュアの協力の下、アーティスト・イン・レジデンスのプログラムを開始。300人の応募者の中から選ばれたのは、絵画とテキスタイルの制作を中心に活動するウクライナ人アーティストのアナスタシア・ポデルヴィアンスカ、コソボのペジェにある現代美術研究所ARKIVの創設者であるシスレイ・シャファ、ブルックリンを拠点に活動し、パートナーのモロ(タカヒロ・モロオカ)との関係をテーマとした作品を制作している写真家ピクシー・リャオの3人だった。

ベルモンドグループとガレリア・コンティニュアのコラボレーションは、「MITICO」という名称で2022年に始まり、初年度には4人のアーティストが参加した。2023年にはラ・レジデンシアも加わり、彫刻家アルカンジェロ・サッソリーノのインスタレーション作品《Hunger》(2006-2007)の展示を行っている。

ベルモンド・ラ・レジデンシア(Belmond La Residencia)

14. カン・フェレレタ(Can Ferrereta) 所在地:マヨルカ島(スペイン)

マヨルカ島のサンタニーにあるカン・フェレレタ。Photo: Can Ferrereta

マヨルカの王ジェームズ2世(1243~1311)が拓いたサンタニー村からほど近い場所に、17世紀に作られた館があった。1年ほど前、この場所をホテルに改装することを決めたのはソルデビラ・フェレールのファミリーだ。フェレール家は元の建築をそのまま活用することにしたため、カン・フェレレタの32の部屋には、木の梁や石造りの丸天井など中世の趣が残っている。

客室に使用されている家具は、地元の職人による特注品や、ピエロ・リッソーニ、ピート・ブーン、ハンス・J・ウェグナー、マイケル・アナスタシアデスといった有名デザイナーによるものだ。アート作品もこのホテルにとって大切な要素で、ジャウメ・プレンサ、ジョアン・ミロ、ギエム・ナダル、ミケル・プラナス、ジョルディ・アルカラス、リエラ・イ・アラゴ、マノロ・バレステロス、バルバラ・ビダルなどの作品が並んでいる。

カン・フェレレタ(Can Ferrereta)

15. テランカ・フォルメンテラ(Teranka Formentera) 所在地:フォルメンテラ島(スペイン)

フォルメンテラ島にあるテランカのエントランス。Photo: Teranka

スペイン・イビザ島の南にあるバレアレス諸島の小さな島、フォルメンテラ。ここにある35室のこのブティックホテルは、アート愛好家のフィリップ・ルクレールによって設立された。スペインの大物彫刻家ジャウメ・プレンサの作品を、庭にある2つのベンチの横に設置したのもルクレールだが、それ以外はホテル業界の大物経営者でテランカ・フォルメンテラの新オーナーでもあるジェニカ・シャムーン・アラジと、インテリアデザイナーのカトリーナ・フィリップスによるコレクションだ。フィリップスは10年来、アラジと仕事を共にしている。

現在も増え続けているコレクションは、バレアレス諸島在住の女性アーティストの作品が中心となっている。たとえば、エリザベス・ローズ・ラングフォードは、グリフィン・アート・プライズを受賞した直後、顔料の専門知識を買われてフィリップスにスカウトされた。また、サステナビリティを追求しているレイチェル・ショー・アシュトンは、海藻を原料にした手漉きの紙と絵の具でコミッションワークを依頼され、ナタリー・リッチ・フェルナンデスは、ホテルの名前にちなんだ粘土作品を制作している。ロビーに吊り下げられているインスタレーションはデザイナーのフィリップス自身によるものだが、このプロジェクトに参加した自分の弟子であるアリス・シェパード・フィドラーやアンナ・アメトラーの作品にも注目してほしいという。

テランカ・フォルメンテラ(Teranka Formentera)

16. アバディア・レトゥエルタ・ル・ドメーヌ(Abadia Retuerta Le Domaine) 所在地:バリャドリード(スペイン)

ブドウ畑に囲まれたアバディア・レトゥエルタ・ル・ドメーヌ。Photo: Abadia Retuerta Le Domaine

マドリードから車で約2時間、バリャドリード近郊にあるアバディア・レトゥエルタ・ル・ドメーヌは1146年に設立された修道院を改築した建物にある。2013年の修復後にヨーロッパの優れた文化遺産に贈られるヨーロピアン・ヘリテージ/エウロパ・ノストラ賞を受賞したこのホテルは、ここ数年、景観と建築に重点を置いた数多くのアートプロジェクトに取り組んできた。まずは、修道院の時代からこの場所にある美術品の目録作成に取り組んだというが、代表的な所蔵品には、ルネ=アントワーヌ・ウアスが1688年に描いた《アルフェウスとアレトゥーサ》に着想を得て18世紀にボーヴェ工房が制作したタペストリーなどの歴史的作品がある。

一方、27の客室に飾られている近現代アート作品は、アートコンサルタントのフレネシ・ファイン・アーツによって選定されている。フレネシは、テリトリオ・アーティスト・イン・レジデンスの運営も行っており、これまでにアブデラヒム・ヤモウ、ロス・ブラヴー、レオノール・セラーノ・リーヴァスらがこのレジデンスに参加している。また、アバディア・レトゥエルタは、スペイン最大級のアートフェアであるARCOマドリードで、毎年のように新たなコレクションを購入している。エマヌエラ・ソリア・ルイスの彫刻作品《Running Water》(2022)も、最新コレクションの1つだ。

アバディア・レトゥエルタ・ル・ドメーヌ(Abadia Retuerta Le Domaine)

17. ビブロス・アート・ホテル・ヴィラ・アミスタ(Byblos Art Hotel Villa Amista) 所在地:サン・ピエトロ・イン・カリアーノ(イタリア)

ヴェローナの近郊にあるビブロス・アート・ホテル・ヴィラ・アミスタ。Photo: Byblos Art Hotel Villa Amista

イタリア・ヴェローナの北西に位置するビブロス・アート・ホテル・ヴィラ・アミスタは、ミケーレ・サンミケリが15世紀に建てたヴィラの跡地にある。ヴィラは18世紀にイグナツィオ・ペッレグリーニによって改築され、2005年には前衛的なデザイナーグループ、スタジオ・アルキミアのアレッサンドロ・メンディーニによる改装が行われた。メンディーニは、18世紀フランスのネオ・バロック様式の椅子にポール・シニャックのカラフルな点描画の一部を組み合わせた「プルーストの安楽椅子」で知られている。

近年の改装以来、ホテルの敷地内外にはアート作品が増え続けている。マリーナ・アブラモヴィッチの写真作品、トニー・クラッグの抽象彫刻、ロバート・インディアナによるLOVEの彫刻、アニッシュ・カプーアの鏡を用いたインスタレーション、ジャン=ミシェル・オトニエルの巨大トーテム、トム・ヴェッセルマンによるアルミ板をカットしたヌード作品など、40点あまりのコレクションは今やホテルの庭を埋め尽くしている。また、ホテルの廊下の一部にはマリアンジェラ・レヴィータによるペイントが施されている。

ビブロス・アート・ホテル・ヴィラ・アミスタ(Byblos Art Hotel Villa Amista)

18. ホテル・エクラ北京(Hotel Eclat) 所在地:北京(中国)

ホテル・エクラ北京はピラミッド型のビル内にある。Photo: Hotel Eclat

ホテル・エクラは、北京の大使館地区にあるウィンストン・シュー設計のピラミッド型ビル、パークビュー・グリーンの16階から21階に入っている。スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールドのメンバーであるこのホテルの客室やロビーに展示されているのは、100点にも及ぶ美術館クラスのアート作品だ。

ザ・ギャラリーと名付けられたロビーラウンジでは、アンディ・ウォーホルの「マリリン・モンロー」シリーズと「ジャイアント・パンダ」シリーズの版画作品が、想像を超えた姿に変えられたサルバドール・ダリのブロンズ像《Trojan on Horseback》とともに展示されている。信じられない話だが、このブロンズ像は金色にペイントされ、赤いLEDのハートを付けて展示されている。ちなみに、ホテルには36点のダリのブロンズ像があるが、これはヨーロッパ以外での個人コレクションとしては最大のものだ。

天井には、ジトカ・カメンコヴァ・スクラヴァによるガラスのインスタレーション作品が吊るされているほか、中国人アーティストの作品も多い。たとえば、チェン・ウェンリンの代表的な赤い男の彫刻、ファン・ツァオヤンによるボタンの壁を背に泣く女性像、シェン・ジンドンの兵士が並ぶ彫刻《Hero》などがある。

ホテル・エクラ北京(Hotel Eclat)

19. ザ・ランガム・ボストン(The Langham Boston) 所在地:ボストン(アメリカ)

ボストンの歴史的建造物を利用したザ・ランガム・ボストン。Photo: Getty Images

元は連邦準備銀行だった歴史ある建物を利用したザ・ランガム・ボストン。そこに展示されている268のアート作品のうち、60点は委託制作によるものだ。また、作品の多くは、アメリカ最古の非営利美術協会であるコプリー・ソサエティ・オブ・アートから提供されている。

ホテルのロビーには、アルメニア人アーティスト、サミュエル・ガレギニャンが委託されたジョン・シングルトン・コプリーの肖像画が飾られ、カクテルバーにはアカディア・メッツォファンティによるクラシック音楽家の写真が6点、アン・エマーソンによるパステルの静物画、ドロン・プツカによる具象的なコラージュ、ジョー・ノリスによる抽象絵画が展示されている。ホテルの幹部であるミシェル・グロッソは、「コロナ禍の時期は、地元のアーティストに作品を依頼することが多くなりました。宿泊客の方々には、ぜひボストンにいるアーティスト自身に話を聞いて、作品について詳しく知ってほしいと思います」と語っている。

一方、20世紀初頭のアメリカを代表するイラストレーターで、マサチューセッツ州生まれのN. C. ワイエスにちなんで名づけられた「ワイエス・ルーム」には、エイブラハム・リンカーン大統領と財務長官のサーモン・P.チェイスを描いた壁画と、アメリカ独立期の指導者アレクサンダー・ハミルトンを描いた壁画がある。2つの壁画は、この建物が銀行だったころに描かれた作品だ。また、ホテルのレストラン、グラナの壁には、銀行の歴代頭取8人の肖像画が並び、この建物の歴史を物語っている。

ザ・ランガム・ボストン(The Langham Boston)

20. ファエナ・ホテル・マイアミビーチ(Faena Hotel, Miami Beach) 所在地:マイアミビーチ(アメリカ)

マイアミビーチのオーシャンフロントに位置するファエナ・ホテル・マイアミビーチ。Photo: Universal Images Group via Getty Images

ブエノスアイレスとマイアミビーチに拠点を持つファエナ・アートは、分野横断的なアート作品の委託、制作、展示を行う慈善団体だ。ファエナ・ホテル・マイアミビーチのエントランスホールにも、アルゼンチンのグラフィックデザイナーで商業写真家でもあるフアン・ガッティの寓話的なフレスコ画が同団体によって設置されている。また、屋外で巨大なガラスのショーケースに守られているのは、金色に輝くマンモスの骨格化石を模ったダミアン・ハーストの《Gone But Not Forgotten》だ。この堂々たるインスタレーションに加え、ジェフ・クーンズ、アルベルト・ガルッティ、ゴンサロ・フエンマヨールらの作品が並んでいる様子は、公共のビーチからも見ることができる。

ちなみに、ホテルのデザインに協力したのは映画監督のバズ・ラーマンと妻で映画衣装デザイナーのキャサリン・マーティン(『ムーラン・ルージュ』と『華麗なるギャツビー』でアカデミー賞の美術賞と衣装デザイン賞を受賞)で、赤を中心とした配色を内装に施している。

ファエナ・アートは2012年に、既成概念にとらわれない発想と実験を奨励する「ファエナ・プライズ」を創設。昨年は、395人の応募者の中からサンティアゴを拠点に活動するパウラ・デ・ソルミニハックが受賞。ホテルのプライベートビーチに設置するウッドデッキ型のインスタレーション作品《Morning Glory》に、10万ドル(2023年11月末の為替レートで約1480万円)の賞金が授与された。

ファエナ・ホテル・マイアミビーチ(Faena Hotel, Miami Beach)

21. ロード・ボルティモア・ホテル(Lord Baltimore Hotel) 所在地:ボルティモア(アメリカ)

著名なアートコレクター、ルベル・ファミリーが所有するロード・ボルティモア・ホテル。Photo: Lord Baltimore Hotel

世界有数のアートコレクターであるルベル・ファミリーは、メリーランド州にあるロード・ボルティモア・ホテルを2013年に取得した。1928年に建てられ、国の歴史的建造物に登録されている23階建てのフレンチ・ルネサンス様式の建物は、インテリアデザイナーのスコット・サンダースの協力を得て修復が行われた。それ以来、440のスイートルームや客室、パブリックエリアには、メラ&ドン・ルベル夫妻が選んだ2500点にのぼるアート作品が飾られている。たとえば、壮麗な金色のムラーノガラスのシャンデリアが吊るされたグランドロビーの隣にあるLBタバーンには、世界の図書館を撮影したカンディダ・ヘーファーの7枚の大型写真作品がある。そして、書籍や展覧会の図録を含むルベル・ファミリーのコレクションは、時折展示替えされながらホテルのあちこちで公開されている。

ルベル夫妻の息子、ジェイソン・ルベルは、ボルティモアの人々やさまざまな場所のオンライン画像をまとめるよう、ファミリーのグラフィックデザイン担当者に依頼し、それが後に「ボルティモア・グーグル・アート」プロジェクトにつながった。さらに、2018年には地元のアーティストをサポートする展覧会「Good Taste」シリーズを開始。ここで発表された作品の中には、ホテルの常設コレクションに加えられたものもある。「Expressing in the Abstract」と題された最新の展覧会では、メリーランド州のアーティストで、アクリル絵の具やエンコースティックといった多様なメディウムで抽象画を制作しているエイプリル・C・ハウスに光を当てている。

ロード・ボルティモア・ホテル(Lord Baltimore Hotel)

22. ザ・フィスター・ホテル(Pfister Hotel) 所在地:ミルウォーキー(アメリカ)

ミシガン湖西岸のミルウォーキーにあるザ・フィスター・ホテル。Photo: Pfister Hotel

ドイツ人からアメリカに移民したギド・フィスターには、芸術に満ち溢れた館を人々のために建てたいという夢があった。彼が亡くなった後、その夢を実現させたのが息子のチャールズだ。1983年にチャールズがウィスコンシン州・ミルウォーキーにオープンしたザ・フィスター・ホテルには、現在80点以上のヴィクトリア朝時代の美術品が展示されている。その中には、ルイス・メイヤーによる古代ギリシャの女性詩人サッフォーの肖像画、アントニオ・トーレスのギリシャ風の女性、エミール・オーギュスト・パンシャールが泉のほとりの女性を描いた絵、ポール・ルイ・ナルシス・グロレロンやルートヴィヒ・ヴォルマール、ジョルジュ・アシル=フォールドなどの風俗画などがある。

ザ・フィスター・ホテルが現在実施している芸術関連の取り組みの1つに、アーティスト・イン・レジデンスがある。レジナルド・ベイラー、マーガレット・ムーザ、クリストファー・T・ウッドなど12人の作家がこのプログラムに招かれ、ホテルからインスピレーションを得ながら制作を行っている。なお、作家のワークスペースとなっている1階のフロアは常時解放されている。

ザ・フィスター・ホテル(Pfister Hotel)

23. ホワイト・エレファント・パーム・ビーチ(White Elephant Palm Beach) 所在地:パームビーチ(アメリカ)

白壁が美しいホワイト・エレファント・パーム・ビーチ。Photo: White Elephant

1920年代にできたこの美しい建物は、修復を施されてラグジュアリー・ブティック・ホテルに生まれ変わった。32の客室・スイートルームは、シックな内装、落ち着きのある木材の床、上質なリネン、温かみのある色調でまとめられている。パームビーチの中心、サンセット・アベニューの象徴的存在であるホワイト・エレファント・パーム・ビーチは、瓦屋根や装飾の施された中庭、豪華なインテリアなど、地中海建築を現代的に解釈した仕上がりで、約120点のアートコレクションを展示できるよう設計されている。ホテル名の由来にもなっているフレドリック・プレスコットの大きな白い象の彫刻も展示作品の1つで、ロビーを飾るために委託されたオリット・フックスの丸いキャンバスを使った絵画《The Lady of the House》とともに、ホテルのコレクションの目玉になっている。

フックスは、ホワイト・エレファント・パーム・ビーチがマサチューセッツ州のナンタケット島に所有する姉妹ホテルで、委託作品の制作のために2週間過ごした6人のアーティストの1人。他の5人は、島の植物をモチーフに水彩画を描いたメアリー・チャンドラー、カラフルなビーチサイドの写真でインスタレーション作品を制作した写真家のトーマス・ジャクソン、現代的で硬質な風景画で知られるメイン州在住の女性画家グレタ・ファン・カンペン、海岸や自然物をモチーフとした絵画作品で知られるルネ・レヴィン、スウェーデン人アーティストのクララ・ハレンクロイツという面々だ。

 ホワイト・エレファント・パーム・ビーチ(White Elephant Palm Beach) 

24. ザ・ベッツィー・ホテル(The Betsy) 所在地:マイアミビーチ(アメリカ)

マイアミビーチにあるアール・デコ建築のザ・ベッツィー・ホテル。Photo: The Betsy

ザ・ベッツィー・ホテルを設計したのは、アール・デコ様式の建築で知られるローレンス・マレー・ディクソンとヘンリー・ホーハウザーの2人だ。ディクソンは、1942年に開業したベッツィー・ロス・ホテル(ザ・ベッツィー・ホテルの前身)を建て、ホーハウザーは1937年に隣接する建物(旧カールトン・ホテル)を設計している。現在この2つの建物の間には、ザ・ベッツィー・オーブ(ベッツィーの球)と呼ばれる巨大な卵のようなパブリックアートが挟まるように設置されている。

ホテルの廊下や階段の吹き抜けには、2つの膨大な写真コレクションが展示されている。ホーハウザー館の2つのフロアを占めているのはボブ・ボニスがビートルズとローリングストーンズを撮影した写真作品で、3階にはロバート・ズッカーマンの自伝的作品《View From the Hospital》が飾られている。また、レストラン、ジ・アレイに設置された《The Betsy Poetry Rail》のインスタレーションも目を引く。これは、マイアミを代表する12人(モハメド・アリ、リチャード・ブランコ、エイドリアン・カストロなど)の言葉をジェット水流でスチールに刻んだものだ。さらに現在1階のギャラリースペースでは、マリ出身の写真家セイドゥ・ケイタの作品、ジンバブエ出身のタマリー・クディタによるシリーズ写真「Fabris of Man, Family and Society」、ロンドンを拠点に活動するチャーリー・スポットのストリートフォトなどが展示されている。

ザ・ベッツィー・ホテル(The Betsy)

25. ベネッセハウス ミュージアム (Benesse House Museum) 所在地:直島(日本)

瀬戸内海に浮かぶ直島のベネッセハウス ミュージアム。Photo: Benesse House Museum

1992年にオープンしたベネッセハウス ミュージアムでは、美術館とホテルがまさに一体化している。設計を行った世界的建築家、安藤忠雄のコンセプトは、自然・建築・アートの共生だ。そのコンセプトの通り、瀬戸内海の直島にあるこの建物は、複数の開口部から島の自然を内部へと導き入れる構造が特徴で、宿泊施設は「ミュージアム」「オーバル」「パーク」「ビーチ」と呼ばれる4棟に分かれている。

ミュージアム棟の地下1階にあるのは、安田侃の《天秘》、ジェニファー・バートレットの《黄色と黒のボート》、デイヴィッド・ホックニーの《ホテル・アカトラン 中庭の回遊》、ジョン・チェンバレンの《クロモ・ドーモ》など。1階にはアルベルト・ジャコメッティ、セザール、リチャード・ロングなどの彫刻があり、2階では安藤忠雄によるベネッセハウスの模型やドローイングなどが展示されている。

パーク棟では、無数の四角で人間を表したアントニー・ゴームリーの彫刻《サブリメイトⅣ》や、ミケランジェロ・ピストレットの《フレスコ画5》を見ることができる。《フレスコ画5》は、片方がオレンジ色に、向かいのもう片方が青に塗られ、それぞれに貼りつけられたプレキシガラスが鏡のように互いを映している。さらに、カレル・アペル、ニキ・ド・サンファル、アンソニー・カロなど、ベネッセのコレクションが各所にちらばっている。中でも目を引くのは、黄色に黒いドットのある草間彌生の大きなカボチャの立体作品だ。2021年に台風で海に流され破損したが、2022年10月に復元された。

ベネッセハウス ミュージアム (Benesse House Museum)

(翻訳:清水玲奈、鈴木篤史)

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