AI時代のアプロプリエーション──NY個展での差し止め請求が問う「作風」と著作権

既存の絵画作品や写真などを流用する「アプロプリエーション」は、アンディ・ウォーホルのような著名アーティストが対象になったケースも含め、数多くの訴訟を引き起こしてきた。この問題をさらに複雑にするのが生成AIの使用だ。現在ニューヨークで開催中の個展を例に、AIを用いた「作風の流用」について取材した。

ヘフト・ギャラリーに展示されているケビン・エシェリックの「オマージュ」シリーズ。Photo: Courtesy of the artist.
ヘフト・ギャラリーに展示されているケビン・エシェリックの「オマージュ」シリーズ。Photo: Courtesy of the artist.

アーティストがほかのアーティストによる作品を模倣したり引用したりするのは、美術史を振り返っても珍しいことではない。では、そうした作品が問題を引き起こすとしたら、元の作品にどれほど近い場合だろうか?

この問いと、それに対する答えがAI技術によって変わる可能性に焦点を当てた展覧会が、ニューヨークのヘフト・ギャラリーで3月15日まで開催中だ。作家は、これがニューヨーク初個展となる31歳のケビン・エシェリック。創作活動を始めたのは、NFTを中心にデジタルアートへの関心が急激に高まった2021年だった。

ヘフト・ギャラリーは昨年設立されたばかりの新しいスペースで、創設者のアダム・ヘフト・バーニンガーによれば、「ルールやロジック、構造、コードによって成り立つ、システムベースの制作手段に人間の直感を応用した作品を展示する」場だという。

しかし、壁に展示されているうち3点の作品は黒いベルベットの布で覆われている。人気画家、ジョージ・コンドの代理人を務めるニューヨークのイーストマン&イーストマン法律事務所から、展示の停止を求める文書が届いたからだ。その横には、何が展示されているのかを来場者に知らせるため、弁護士から届いた文書が個人情報などを黒塗りした上で掲示されている。

流用された作家の多くがAI作品に「好意的」

エシェリックの個展は2つの作品群で構成されている。その1つが、ビープルやジョージ・コンド、ペトラ・コートライト、シャラ・ヒューズ、ジュリアン・グエン、トレヴァー・パグレン、シンディ・シャーマンサルマン・トゥールなど、エシェリックが敬愛するアーティストの作品を学習させたAIが、それぞれの作風を模して生成した「オマージュ」というシリーズだ。

2月11日のオープニングでは、このシリーズの一環としてマリーナ・アブラモヴィッチの《The Artist Is Present(作家は在廊中)》へのオマージュが演じられた。2010年にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された回顧展の会期中、アブラモヴィッチが展示室に座って来場者と対面し続けた代表的パフォーマンスを、特殊メイクでアブラモヴィッチに扮した役者が再現したのだ。

エシェリックは作品の発表前に、オリジナルの作品を制作したアーティストたちに宛てて展覧会の内容を通知した。「彼らがこれまで作ってきた作品群に違和感なく溶け込む」と確信する新たな作品を制作したことを知らせ、もしそれが自分の新作だと言えると思えたら、その作品にサインをする選択肢もあると伝えている。サインすることでAIによるその作家の模倣が、本人によってさらにアプロプリエーション(編注:既存のイメージや他者の表現を引用・転用、新しい文脈で提示すること)された形になり、作品が売れた場合は代金を受け取れると提案したのだ。

ヘフト・ギャラリーのケビン・エシェリック個展の初日に演じられたパフォーマンス《The Artist Is Absent (After Marina)》(2026)。Photo: Colin Savercool
ヘフト・ギャラリーのケビン・エシェリック個展の初日に演じられたパフォーマンス《The Artist Is Absent (After Marina)》(2026)。Photo: Colin Savercool

エシェリックは電話取材に対し、大半のアーティストには好意的に受け止められたと答えている。また、US版ARTnewsがコメントを求めたアーティストの1人、パグレンからは、「光栄なことです」という回答が返ってきた。エシェリックによると、ビープルはさらに前向きで、ビープルのスタイルで作った作品のオークションを支援するという。エシェリックはこう付け加えた。

テクノロジーや文化をめぐる状況が様変わりする中、創造性はどう変わることになるのか。アーティストの決定権は、そして作風の所有権に関する規範や法律は今後どうなっていくのでしょうか?」

自身の作風を模倣できるよう生成AIを学習させたエシェリックは、最近「The Artist Is Absent(アーティストは不在)」というプロジェクトを始めた。台湾系アメリカ人のパフォーマンスアーティスト、謝徳慶(シェ・ダーチン)の1年におよぶ伝説的パフォーマンスに着想を得たこのプロジェクトで、エシェリックは1年にわたって自身の創作活動をAIに委ねる。AIは「私の代わりを務めることが可能」と考えるからだ。

この展覧会に並ぶもう1つのシリーズは、レオナルド・ダ・ヴィンチレンブラントメアリー・カサットジョージア・オキーフなどのよく知られた作品をぼやかした「Ablation Studies(除去の習作)」だ。それらがぼやけているのは、既存の芸術作品の画像をAIに入力した後、生成処理をあるところで中断させた結果だという。この行為によって「AIが持つ擬似的な認知プロセスを覗き見ることができる」とエシェリックは説明する。

ケビン・エシェリック《Untitled #1 (After Cindy)》(2026) Photo: Courtesy of the artist.
ケビン・エシェリック《Untitled #1 (After Cindy)》(2026) Photo: Courtesy of the artist.

世界的な人気作家から差し止め請求

この展覧会の出展作で問題が起きたのは、ジョージ・コンドの作風を模して2026年に制作された3点だけだった(取材時に見せてもらったが、ここでは画像を掲載しない)。コンドは、まるで爆発したようなキュビズム的スタイルで人物を描く、エッジの効いた絵画で知られる世界的アーティストだ。

3点の1つ、《Groundhog Day (After George)(グラウンドホッグ・デイ [ジョージに倣って] )》には、草むらから男性の上半身が覗く様子が描かれている。また、《Reginald III (After George)(レジナルド3世 [ジョージに倣って] )》は冠を戴き笏を持つ王の立像で、その衣の間から太った腹が露わになっている。《The American Pope (After George)(アメリカの教皇 [ジョージに倣って] )》には赤と白の衣をまとった教皇が描かれ、その耳から小さな星条旗が突き出ている。

アート界におけるコンドは、ほとんどの作家が夢想することしかできない絶大な影響力を持つ存在だ。2010年にリリースされ、2010年代で最高のアルバムの1つとされているカニエ・ウェストの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』のジャケットに使われたことで、彼の作品はアート好きだけでなく幅広い層に認知されている。また、2011年にニューヨークのニューミュージアムで開催された彼の回顧展は、ニューヨーク・タイムズ紙の批評家ホランド・コッターから「センセーショナル」と絶賛された。

コンド作品のオークション記録は、2020年にクリスティーズ香港で《Force Field(力場)》(2010)が達成した690万ドルだ(最近の為替レートで約10億7000万円、以下同)。1年前にはニューヨークのハウザー&ワースとシュプルート・マーガーズの2カ所で個展が同時開催された。この展覧会には紙を支持体とした20点の作品が出品され、アートネット・ニュースの報道によると、最も高額な作品には150万ドル(約2億3000万円)の値が付けられていた。

2025年の11月以降、コンドはシュプルース・マーガー(ベルリンロンドンロサンゼルス、ニューヨークに拠点)と、スカルシュテッド(ニューヨーク、ロンドン、パリに拠点)の2つのギャラリーに所属している(それ以前は、2019年からメガギャラリーのハウザー&ワース所属だった)。

エシェリックの個展が始まる前日の2月10日付でコンドの弁護士から送られてきた文書では、エシェリックの絵は無許可の二次創作で、コンドの著作権を侵害していると主張されていた。ヘフト・ギャラリーに対しては、作品の展示を中止し、当該作品に対する支払いを受け取った場合は全額をコンドへ送金するよう求めている。US版ARTnewsはこの法律事務所にコメントを求めたが、回答は得られていない。

独自「作風」は著作権で保護できるのか?

「これは一般的なアプロプリエーションとは異なります。そこには、かつて行われていた宗教的図像の模倣に見られる信仰的要素があります。そして、テクノロジーによって他者の視点や感性から見た世界を我が物にすることができるのです」

そう語るエシェリックは、ノートルダム大学で哲学と心理学を学んだ後、「ウェルビーイングメンタルヘルスのためのパーソナルトレーナー」と彼が説明するアプリ、「Enlighten(啓蒙)」を開発した。その後はフリーランスのライターとして活動していたが、2021年に起きたデジタルアートブームに乗って自らも作品をつくりはじめ、ある程度の成功を収めた。今回の個展のデジタルカタログによると、ニューヨークのスーパーレア・ギャラリーやワシントン D.C.のハーシュホーン博物館と彫刻の庭、シカゴ美術館での展示歴がある。

「これらは二次創作物ではありません。法的には完全に新しい作品で、ジョージ・コンドによる特定の作品から派生したものではないのです」とエシェリックは反論する。

一方、弁護士でアーティストでもあるアルフレッド・シュタイナーによると、この対立の前例となる判例は存在しないという。彼はエシェリックに代わって次のように説明した。

「独自の作風を保護するためにアーティストが使える法的枠組みは、いくつか存在します。たとえば、商標法やランハム法(連邦商標法)です。これを適用する場合は、混同の可能性の有無、あるいは商業上、虚偽または誤解を招く表現であるかどうかが争点となります。しかし今回の件に関しては、全てが適切に開示されているため、そうした主張をすることは難しいでしょう。もう1つの法的枠組みは人格権の侵害です。人格権は個人の名前や肖像、または容貌が濫用されないよう保護するものです」

その上でシュタイナーはこう結論付けている。

「法的にはケビンが有利だと言えるでしょう」

アート分野における著作権法や著作者の人格権などに詳しく、ニューヨーク大学で法律を教えているエイミー・アドラーは、US版ARTnewsの電話取材にこう答えた。

「この対立の核心にあるのは、著作権で作風を保護できるのかという非常に興味深い問題です。教科書的な答えは『いいえ』ですが、法律には解釈の余地があります。作風を真似るAIの普及によって、この問題に対処する必要性は今後さらに高まっていくでしょう」

アドラーは、もう1つ重要な問題があると考えている。それは、エシェリックがコンドの作品をAIに学習させたことが著作権侵害に当たるかどうかだ。

「AIによる学習が著作権の侵害に該当するのか、あるいは著作権法の『フェアユース(公正利用)』規定で保護されるのかについて、現在係争中の訴訟が山ほどあります」とアドラーは続けた。

「判決が下された事例はまだごくわずかです。現時点でカリフォルニア州の2つの裁判所が、AIによる学習はフェアユースに当たると判断しましたが、いずれもその事例特有の事実に基づく判決です。今のところケースごとに見ていくしかありません」(翻訳:野澤朋代)

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