最大147億円相当のルネサンス名画を窃盗──売却は「事実上不可能」、マフィア関与も浮上

8月15日、イタリア・シチリア島のメッシーナ州立博物館から、ルネサンスの巨匠アントネロ・ダ・メッシーナの作品4点が盗まれた。評価額は計7000万~8000万ユーロ(約129億~147億円)に上るとされ、マフィア関与の可能性も浮上している。

アントネロ・ダ・メッシーナ《Polittico di San Gregorio》(1473)Photo: Wikimedia commons

シチリア島のメッシーナ州立博物館(Regional Museum of Messina、通称MuMe)から、ルネサンスの巨匠アントネロ・ダ・メッシーナ(1430頃-1479)が手がけた祭壇画の板絵3点など計4点が盗まれた。イタリア当局が8月16日に明らかにした。犯行が驚くほど短時間かつ容易に行われたことから、組織犯罪が関与した可能性も浮上している。

事件が起きたのは8月15日夜。人々がイタリアの祝日「フェッラゴスト」を祝うなか、犯人らはメッシーナ州立博物館に侵入した。警報装置が作動するなか、防犯用の展示ケースを破壊し、《Polittico di San Gregorio(サン・グレゴリオの多翼祭壇画)》(1473)を構成する5点の板絵と、小型の両面板絵1点を持ち出した。一連の犯行は、わずか数分のうちに行われたという。

その後観光客が、美術館の外壁に立てかけられたアントネロの板絵2点を偶然発見。犯人らが逃走中に放置したとみられるが、祭壇画の板絵3点と小型の両面板絵1点は、現在も行方が分かっていない。

メッシーナ州立博物館の中庭。Photo: Fabrizio Villa/Getty Images

作品を置き去りにした理由について、メッシーナ市の文化担当評議員エンツォ・カルーソはロイター通信の取材に対し、犯人らが板絵の重さを想定していなかった可能性を指摘。次のように説明した。

「予想以上に重かったのかもしれません。これらは木製の板絵です。額縁から切り取れるカンバスを盗むのとはわけが違います」

南北ヨーロッパの美術を繋いだ作家

1430年頃に生まれたアントネロは、南北ヨーロッパのルネサンス美術を繋いだ重要な画家とされる。その独自の作風には、プロヴァンスやフランドルの美術、とりわけヤン・ファン・エイク(1395-1441)らの影響が見られる。

16世紀の画家・美術史家ジョルジョ・ヴァザーリは、アントネロがフランドルを訪れ、ファン・エイクから油彩技法を学んだと記している。ただし、この逸話を裏づける史料はない。一方、ファン・エイクの作品を特徴づける、内側から発光するような柔らかな光を生み出す繊細な油彩表現が、アントネロの芸術に大きな影響を与えたと考えられている。

《Polittico di San Gregorio》は、もともと6点の板絵で構成されていた。アントネロがサン・グレゴリオ修道院のために制作したもので、同修道院は1908年のメッシーナ地震で倒壊している。この祭壇画は、アントネロの故郷メッシーナに現在も所蔵されている唯一の同作家作品だ。

アントネロの評価が高まる中での犯行

もう1点の盗難作品は、片面に聖母子と祈りを捧げるフランシスコ会士、もう片面に《エッケ・ホモ》を描いた小型の両面パネル作品だ。2003年にクリスティーズオークションに出品され、シチリア州政府が購入した。AP通信によると、盗まれた4点の評価額は計7000万~8000万ユーロ(約129億~147億円)に上る。

アントネロを南北ヨーロッパのルネサンス美術を結んだ重要な画家として捉える研究が進むにつれ、その作品への国際的な関心も高まっている。美術市場では、2026年2月にイタリア文化省がサザビーズを通じて両面パネル作品《エッケ・ホモ》《荒野の聖ヒエロニムス》(1430-79頃)を1490万ドル(約23億7000万円)で取得し、注目を集めた。

マフィア関与の可能性も?

カルーソは、アントネロほど著名な画家の作品を闇市場で売却するのは事実上不可能だと指摘する。犯罪組織間の取引で通貨や担保の代わりに使われるか、作品の返還と引き換えに身代金を要求する材料にされる可能性のほうが高いという。

マフィアの関与について、カルーソは次のように述べている。

「作品を返還する条件として、国家そのものを脅迫しようとする可能性はあります。こうした裏の動きが、一般の人々の目に触れることは決してありません」

カルーソは、犯人らは作品をどこかに隠し、騒ぎが収まるのを待っているのではないかと推測する。一方、美術館がメッシーナ海峡沿いに位置することから、作品が海路ですぐに運び出された可能性もあるという。現在は、ローマを拠点とする美術品犯罪捜査班が、アントネロ作品の行方を追っている。(翻訳:編集部)

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