古代ローマ人は「高価な青」がお好き? 2000年前の壁画から異例の技法を発見

イタリア北部で出土した古代ローマ時代の壁画片から、高価な青色顔料「エジプシャンブルー」をモルタルに混ぜ込む珍しい技法が判明した。学術的な報告例は極めて少なく、約1900年前の顔料の流通や制作工程を知る手がかりとして注目される。

ローマのサン・パオロ港浴場(ピエトラ・パーパ)「部屋E」の壁画、2世紀。Photo: Wikimedia commons

イタリア北部で出土した古代ローマ時代の壁画片を調査した結果、青色顔料「エジプシャンブルー」が表面の彩色だけでなく、その下の石灰モルタルにも混ぜ込まれていたことが明らかになった。Archaeology Newsが伝えた。

壁画片が見つかったのは、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州にあるトッレ・ディ・ポルデノーネの古代ローマ時代の邸宅跡だ。考古学者たちは、邸宅の第2区画にある二次堆積層(本来の場所から移動した遺物が堆積した地層)から、これらの断片を発見した。

壁画は養魚池を描いたものとみられ、青い背景にボラやタコ、カサゴ、ロブスターなど、さまざまな海洋生物が表現されている。同様のモチーフは、ブレシア、ポンペイ、ローマにある古代遺跡でも確認されている。研究チームは、こうした作例との比較から、トッレ・ディ・ポルデノーネの壁画片を紀元1世紀後半から2世紀前半のものと推定している。

今回の研究では、養魚池を描いた10点の壁画片を分析した。研究チームはモルタル層とその内部に含まれる青色の物質に注目し、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡、X線回折、ラマン分光法、マイクロ蛍光X線分析などを用いて詳しく調べた。

その結果、壁画の表面だけでなく、その下にある薄いモルタル層の内部からも、エジプシャンブルーの主要な結晶成分であるキュプロリバイト(銅を含む青色の鉱物)が検出された。

トッレ・ディ・ポルデノーネの「養魚池」が描かれた壁画片。Photo: S. Dilaria et al., Archaeometry (2026)

一部の粒子は表面から1ミリ以上深い位置で見つかり、ラマン分光法では約2ミリの深さまで確認された。さらに、マイクロ蛍光X線分析では、銅を多く含む粒子群がモルタル内部の約3ミリの深さにまで達していることも判明した。

粒子が見つかった位置やその大きさを考えると、表面に塗られた顔料がモルタルへ浸透したとは考えにくい。フレスコ画では、湿った漆喰に顔料を塗っても、内部へ入り込む深さには限界があるためだ。研究チームは、顔料が意図的にモルタルへ混ぜ込まれた可能性が高いと結論づけている。

古代ローマの職人たちは、壁に塗る前の段階でエジプシャンブルーを石灰や骨材と混ぜ、「着色モルタル」と呼ばれる均一な青色の層を作ったとみられる。これは、塗りたての漆喰の表面に顔料を施す一般的なフレスコ技法とは異なる方法だ。

この技法には実用上の利点もあった。青く着色したモルタルを使うことで、海洋風景のための広く均一な下地を作ることができる。また、漆喰を塗る職人と絵を描く職人が、別々の工程で作業のタイミングを細かく調整する手間も減らせたという。

しかし、エジプシャンブルーは一般的な土由来の顔料より高価であり、モルタルそのものに混ぜ込むのは珍しい。研究によると、顔料は着色モルタル全体の約5%を占めていた。広い壁面を仕上げるには、相当量のエジプシャンブルーが必要だったはずだ。

通常、着色モルタルには、赤色顔料のレッドオーカー(赤色黄土)が使われることが多かった。エジプシャンブルー自体は古代ローマの壁画に広く見られるものの、通常は表面に薄く塗るか、ほかの顔料と混ぜて使用されている。石灰モルタル全体に意図的に加えた例は、はるかに少ないという。

エジプシャンブルーが豊かに使えた時代

一方、モルタルの材料からは、職人たちの実用的な姿勢もうかがえる。質の高い古代ローマの漆喰にしばしば使われた細粒の結晶質方解石ではなく、化石を多く含む地元産の石灰岩が用いられていた。高価な青色顔料と、比較的ありふれた地元の材料を組み合わせていたことになる。

今回の発見は、古代ローマの市場でエジプシャンブルーが安定的に流通していたことを示す新たな証拠でもある。トッレ・ディ・ポルデノーネで使われた量を踏まえると、大規模な装飾事業に必要な顔料を十分に調達できたと考えられる。

研究チームによると、エジプシャンブルーをモルタルに混ぜ込んだ古代ローマ時代の壁画は、学術的に報告された例としては極めて珍しいという。

今後、養魚池やナイル川流域の情景、庭園を描いた壁画など、ほかの青色装飾についても分析を進める必要がある。こうした調査によって、この技法が特定の邸宅だけで使われたものなのか、それとも古代ローマの壁画制作に広く取り入れられていたのかが明らかになるかもしれない。

あわせて読みたい