アート・バーゼル・マイアミ・ビーチでアーティストが逮捕。3歳娘と行った作品制作が器物損壊に

12月7日に終幕した2025年アート・バーゼル・マイアミ・ビーチの会期中の12月3日、ルクセンブルクを拠点に活動するパフォーマンス・アーティスト、トーマス・アイザーが逮捕された。アイザーは会場外のガラスに3歳の娘と文字を書くパフォーマンスを実施したことで、器物損壊罪で起訴された。

警察に身柄を拘束されるトーマス・アイザー。Photo: Jillian Mayer

ルクセンブルクを拠点に活動するパフォーマンス・アーティスト、トーマス・アイザーが、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチの会場であるマイアミビーチ・コンベンションセンター外側のガラス窓で行ったパフォーマンスにより、警察に身柄を拘束された。

トーマス・アイザーは1987年、フランス・メス生まれのアーティストで、グラフィティ文化に由来する作品やパフォーマンスで知られている。事件が起きた12月3日、彼は黒い水着とサングラスのみで全身を黒く塗り、日本の「金継ぎ」をイメージした金色の亀裂を全身に施した姿で、赤い風船を手にした3歳の娘とともにコンベンションセンターを訪れた。

その後、アイザーはセンター外側のガラスに、水溶性塗料のスプレーを用い、誇張されたグラフィティ風の文字で「Sorry to disturb, art in progress(お騒がせして申し訳ありません、アート制作中)」と書き記した。さらに、娘にはその傍らでチョークペンによる落書きをさせていたという。警察はすぐに現場に駆け付け、アイザーの身柄を拘束。軽犯罪である器物損壊罪で起訴した。彼が逮捕されるまでの一部始終は妻によって撮影され、6日にインスタグラムで公開されている。

アイザーは、過去にもパフォーマンス中に逮捕された経験が何度かあるが、警察官が娘の前で「即座に手錠をかけた」ことには驚いたと地元メディアMIAMI NEW TIMESに語った。警察は、きりの良いタイミングを見計らい、娘にも配慮しながら対応するものだと思っていたという。

公開されたインスタグラムの投稿では、今回のパフォーマンスに使用した素材は全て洗い流せる顔料で、誰にも害を及ぼすものではないと説明。その上で、この行為を「優しさ、自由、そして私たちが抱える目に見えない境界線についてのパフォーマンス」と位置づけ、娘と共に創り出したものは「愛と勇気と遊び心による小さな行為」だったと主張している。また、「芸術へのアクセスが特権に依存しがちなこの世界で、彼女自身の居場所を与えたかった──たとえ自分の自由を代償にしても」と、その動機を明かした。

当日、偶然現場に居合わせたマイアミ在住のアーティスト、ジリアン・メイヤーは、US版ARTnewsの取材に対し、「(全身を黒く塗った姿を見て)私が写真を撮ってもいいかと尋ねると、彼は『もちろん! これはアートだから!』と答えました」と語っている。

アイザーはその後、24時間にわたって独房に収容された。MIAMI NEW TIMESの取材に対して彼は、「独房はひどく汚れており、凍えるほど寒かった。看守が定期的に窓越しに懐中電灯を直接顔に当て、自傷行為をしていないか確認するため、ほとんど眠ることができず、心労から食欲も失った」と話している。アイザーのインスタグラムの投稿によると、その後600ドル(約9万円)の保釈金を支払って釈放されたが、今後、裁判が予定されているという。(翻訳:編集部)

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