太陽神ラーを祀る「谷間の神殿」が出土。遺構からは、公共の暦や天体観測用の階段も発見

古代エジプトの太陽神「ラー」をまつる約4500年前の複合神殿の1つが、最新の発掘調査で姿を現した。ナイル川の近くに位置し、「谷間の神殿」と呼ばれるこの遺構は、盛り土をした参道で上部の主神殿とつながっていた。

カイロ南郊のアブ・グラブで発掘中の「谷間の神殿」の一部。Photo: Courtesy of the Egyptian Ministry of Tourism and Antiquities

エジプト・カイロの南西約16キロメートルにあるアブ・グラブで、古代エジプト第5王朝のファラオ、ニウセルラーが約4500年前に建造した「谷間の神殿」の遺構が出土した。

発掘調査にあたっているのはイタリア考古学研究者マッシミリアーノ・ヌッツォロとロザンナ・ピレリが率いる調査チーム。エジプト観光・考古省の12月12日の発表によると、この神殿は太陽神ラーを礼拝するための巨大な複合施設の一部で、一般の人々に祝祭行事の日程などを知らせる公共の暦や、天体観測が行われていたと思われる構造物が見つかっている。

ニウセルラーの太陽神殿は2つの部分で構成され、全体の面積は1000平方メートルを超える。「上部神殿」と呼ばれる部分はヌッツォロらが2021年から発掘を行い、谷にある遺構の調査は2024年に着手されていた。

谷間にある神殿は川沿いに位置し、盛り土をした道が主要な礼拝場所である上部神殿へと続く。ヌッツォロがライブサイエンス誌のメール取材に答えたところによると、谷間の神殿は「ナイル川あるいはその支流から来る船が着岸する場所として使われていた」という。船でやってきた参拝者は、参道で上部神殿へ向かったと見られている。

上から見た谷間の神殿の発掘現場。Photo: Massimiliano Nuzzolo © Egyptian Ministry of Tourism and Antiquity

この複合神殿の存在は、1901年にドイツのエジプト学者ルートヴィヒ・ボルヒャルトによって確認され、石板など一部の発掘が行われた。しかし、当時は地下水の水位が高く、大規模な発掘には至らなかった。今回発表された最新の発掘では、神殿入り口の円柱のあるポーチ、装飾された石板に宗教行事を刻んだ公共の暦のほか、ニウセルラーに関する碑文が刻まれた数十枚の石板などが新たに発見された。

石板の暦には、エジプト古王国時代の首都メンフィスと関係の深いハヤブサの頭を持つ神ソカルの祝祭や豊穣の神ミンの祭り、太陽神ラーの神聖な行列など、重要な行事の名や日付が記されていた。これについてヌッツォロは次のように述べている。

「ここで重要なのは石版のあった場所です。全て入口付近で見つかっているのは、神殿の正面に祝祭の暦が刻まれていたことを示唆していると思われます。初期の公共的な暦の1つと言えるかもしれません」

発掘では、神殿の屋根で天体観測を行うために設置されたと見られる階段も見つかった。この階段は天体観測に使用されていたと考えられている。

谷間の神殿は約1世紀にわたって使用された後、居住地へと転用された。エジプト観光・考古省は、アブ・グラブの遺跡群が「当時この地域で暮らしていた人々の日常生活を理解する新たな手がかりとなる可能性がある」としている。発掘調査は今後数年間にわたって継続される予定。

あわせて読みたい