ツタンカーメンの墓から盗まれた? 盗品疑惑の「バッタ型」彫刻、約6750万円で落札

ツタンカーメン統治時代に作られたとされるバッタ型の彫刻がイギリスのオークションに出品された。少年王の墓から出土した可能性を指摘する声が専門家から上がるなか、最終的に34万ポンド(約6751万円)で落札された。

オークションに出品されたバッタの彫刻。Photo: Courtesy of Apollo Art Auctions
オークションに出品されたバッタの彫刻。Photo: Courtesy of Apollo Art Auctions

ツタンカーメン統治時代に象牙と木で精巧に作られたバッタの彫刻が、7月27日にイギリスのオークションハウス、アポロ・アート・オークションズで34万ポンド(約6751万円)で落札された。

昆虫の形をしたこの作品は、節のある胴体、彩色された象牙製の上羽(市松模様の装飾付き)、木製の下羽、黒い目がはめ込まれた頭部を特徴としており、オークションハウスの説明によれば、「羽を外側に開けると小さな楕円形の空洞が現れる」という。

本作には30〜50万ポンド(約5960万〜9930万円)の予想落札価格が付けられていたが、エジプト美術史家たちは、ツタンカーメン王の墓を発見したイギリスの考古学者、ハワード・カーターによって盗まれた可能性があると指摘していた。カーターは墓の中で発見された数千点の品物の目録作成に何年も費やしたが、その中の一部は不法に彼のコレクションに加わったと一部で疑われている。

出自を説明する販促資料には、「この容器は、20世紀を代表するコレクターであるニューヨークのジョセフ・ブルマーや伝説的なゲノル・コレクションの手を経て、2007年にメリン・ギャラリーが請求書の原本とともに取得した」と記されていた。またオークションハウスは、この彫刻が過去に120万ドル(約1億7720万円)で取引されたことを証明する請求書の原本が付属していると説明。また、1948〜2002年までブルックリン美術館で、そして1969年にはメトロポリタン美術館で展示された実績があるという。

ゲノル・コレクションは、ブルックリン美術館の理事を長年勤めたアラステア・マーティンと妻のエディスが築いた個人コレクションだ。このコレクションからは、紀元前3000〜2800年頃に作られた石灰岩製のライオン像が出品され、最高落札額1800万ドル(現在の為替で約26億円)を大幅に上回る5710万ドル(同約84億円)で落札されている

ニューヨーク・タイムズ紙の取材に対してアポロ・アート・オークションズは、バッタの彫刻がツタンカーメン王の墓から出土したことを示す「証拠は存在しない」と主張し、公式に発表されたいかなる目録にも記されていないと付け加えた。オークションハウスはまた、この遺物が略奪美術品データベースである「Art Loss Register」のリストに入っていなかったといい、同社から証明書が発行されたと述べた。

しかし、一部の専門家は長年にわたり、この工芸品がツタンカーメンの墓に由来するとみなしてきた。例えば、メトロポリタン美術館の元館長トマス・ホーヴィングは、自著『ツタンカーメン秘話』などでその可能性に言及している。

また、エジプト学者で、ドイツのハノーファーにあるアウグスト・ケストナー博物館のキュレーターを務めるクリスチャン・ローベンはニューヨーク・タイムズ紙の記事の中で、バッタ型作品は、王家の谷にあるツタンカーメンの墓から出土した遺物であると「強い確信をもっている」と語り、アポロ・アート・オークションズに反論。その理由として、密封された部屋からの出土であれば見られるはずの損傷がないこと、そしてこの作品の様式がツタンカーメン統治期間中のエジプトで確かに存在していたことを挙げている。

このように、専門家らは本作の出自に深刻な疑問を提起しているが、Art Loss Registerの法律顧問兼回収部長であるジェームズ・ラトクリフはニューヨーク・タイムズ紙に対し、エジプト政府が盗難報告や返還請求をしたことがないため、このバッタは「曖昧な領域」にあると語った。

ちなみに、カーターの略奪疑惑については、カータの死後に彼の遺品のなかからツタンカーメンの名前が刻まれた品物が姪によって発見されたことから、真実と見る向きも強い。それらはエジプトに返還されており、また2010年には、メトロポリタン美術館が所蔵していたカーターの遺品に含まれる19点が、ツタンカーメンの墓から出土したことを裏付ける「決定的な証拠」が得られたともされる。これらもすでにエジプトに帰還している

考古学者としてのカーターの経歴についても執筆しているローベンは、今回のバッタ型彫刻もエジプトに返還されるべきだと述べ、「これは道徳的に間違っている」と指摘した。(翻訳:編集部)

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