「アートを切り裂くことも辞さない」と環境活動団体ジャスト・ストップ・オイルが発言
今年、フェルメール、クリムト、ムンクなど世界的に有名な20数点の美術品が、各国の環境活動家グループによる破壊行為の標的になってきた。それがさらにエスカレートする懸念が出ている。

環境活動家たちは気候変動に関する抗議活動への注目を集めるため、著名な美術品に食べ物を投げつけたり、額縁に接着剤で手を貼り付けたりと、アート界を騒然とさせる事件を次々と起こしている。ただ、今までのところ、作品に致命的な損傷を与えるまでには至っていない。
しかし、状況が悪化する恐れが出てきた。環境団体ジャスト・ストップ・オイルの広報担当、アレックス・デ・コーニングがスカイニュースのインタビューで、かつてサフラジェット(イギリスの女性参政権運動を率いた女性団体)が「主張を広めるために絵を激しく切り裂いた」例にならうことを検討中だと述べたのだ。
デ・コーニングは、「もし事態をエスカレートさせる必要があるなら、私たちは過去の成功事例を参考に、できる限りのことをする」とし、こう続けた。「それが避けられないというなら、残念ながらそうするしかない」
1914年、女性参政権運動の活動家メアリー・リチャードソンが、ロンドンのナショナル・ギャラリーでディエゴ・ベラスケスによる17世紀の絵画《鏡のヴィーナス》を肉切り包丁で数回にわたって切りつける事件が起き、大ニュースになった。これは、活動家仲間のエメリン・パンクハーストの逮捕に対する抗議行動として行われたものだ。
リチャードソンは、「私の狙いは、現代史における最も美しい人物であるパンクハーストを虐げる政府への抗議として、神話の歴史における最も美しい女性の絵を破壊することだった」と語り、「正義は、カンバスに描かれる色彩や描線と同じように美しい」と訴えたという。
この数カ月間、ヨーロッパ各地の美術館が環境活動家の標的にされている。6月と7月には、ジャスト・ストップ・オイルのメンバーがイギリス各地の美術館で、ゴッホの風景画《花咲く桃の木》をはじめとする4点の絵画の額縁に接着剤で自らの手のひらを貼り付けた。
また、ウルティマ・ジェネラツィオーネ(イタリア語で「最後の世代」)の活動家3人がゴッホの《種をまく人》に豆のスープを、レッツェ・ゼネラチオン(ドイツ語で「最後の世代」)の活動家2人がモネの《積みわら》にマッシュポテトを投げつけている。
美術品襲撃が次々発生する中、はたしてこれが有効な戦術なのかという疑問も出ている。ホイットニー美術館(ニューヨーク)のアダム・ワインバーグ館長は10月、美術館の社会的意義についてのパネルディスカッションでこう発言した。「世間の関心を集めるためなのだろうが、これで本当に何かが変わるのかよく考えることも必要だ」
11月には美術館など文化施設の関係者92人が、環境活動団体の行為を非難する共同声明に署名して発表。「世界文化遺産の一部として保存されるべき、かけがえのない美術品の脆弱さを著しく過小評価している」と活動家を批判し、「作品の管理を任されている美術館の館長として、活動家による危険行為を深く憂慮している」ことを表明した。
環境活動家の一部は、破壊行為に対する法的な制裁を受けている。12月2日、ベルリン絵画館(ゲマルデガレリー)でルカス・クラーナハ(父)の絵画《エジプト逃避途上の休息》の歴史的価値のある額縁に、体の一部を接着した20歳の活動家に器物損壊罪が適用された。11月にはヨハネス・フェルメールの《真珠の耳飾りの少女》の横の壁に手を貼り付けたり、自分の頭を絵に接着させたりした事件で、ベルギーの活動家2人に2カ月の禁固刑が言い渡された。なお、絵は損傷を受けていない。
『ガーディアン』紙によると、この裁判で検察側は「我われ皆が楽しめるよう美術館に展示されている芸術作品が、自分たちのメッセージが他の何よりも優先されると考える被告たちに汚された」として、懲役4カ月、執行猶予2カ月を要求していた。(翻訳:清水玲奈)
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