レディ・ガガ、人生を芸術に変えたパフォーマー【アートを愛するセレブたち Vol. 6】
メットガラや新曲リリースのたびにそのパフォーマンスで注目を集める一方、高い発信力で社会的弱者擁護のために常に力強いメッセージを発信し、世界に大きなインパクトを与え続けるレディ・ガガ。今回は「人生は、芸術です」と言ってはばからない彼女と芸術の蜜月関係にクローズアップする。

過激なパフォーマンスに込められたメッセージ
『ジョーカー』(2019)の続編となる『Joker: Folie a Deux』(2024年公開予定)で、ジョーカーの恋人ハーレイ・クイン役に抜擢され、この4月に撮影を終了したことをSNSで公表したレディ・ガガ。撮影中には、ジョーカーを罵る群衆の女性に対して強引にキスをするシーンがあり、その体当たりの演技で同作はすでに前評判も上々だ。
そんなガガのアーティストとしての存在感を強く知らしめたのは、おそらく2010年のMTV・ビデオ・ミュージック・アウォーズで披露したあの「生肉ドレス」だ。
「あのドレスは、今では皆さんご存知の通り、ヴィーガンやベジタリアンに対する中傷ではありません。あれは、アメリカ政府によるゲイの兵士の権利制限政策「Don’t ask don’t tell」に対する抗議でした。もし私たちが信じるものや、権利ために今立ち上がらなければ、政府は容赦なく政策を進めます。それを食い止めるために残された時間はあとわずか──ちょうど骨の上にうっすら残っている肉のようなものだということを表現したのです」
かつてアメリカのコメディアン、エレン・デジェネレスのTV番組「エレンの部屋」に出演した際、あの伝説の「生肉ドレス」の真意についてこう語ったレディ・ガガ。この一件以降、単なる歌姫ではなく、社会的弱者擁護のために痛烈なメッセージを発信する活動家としても認知されるようになった彼女は、現在に至るまで、自身のパフォーマンスを通じて様々な発信と活動に身を捧げている。
2015年のアメリカ・TVドラマシリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」への出演、そして2018年には映画『アリー/スター誕生』で主演を務め、俳優としても高く評価される彼女は、もはや存在そのものがアート。だから、ガガがリー・バウリーやフランチェスコ・ヴェッツォーリら現代アーティストたちとも親交の深いアート・コレクターと聞いて驚く人はいないだろう。
また、「アブラモビッチ・メソッド」を採用したマリーナ・アブラモビッチとのコラボレーションでは、かつてない前衛パフォーマンスで、ミュージックシーンに新たなジャンルを確立し、唯一無二の芸術性で世界を魅了した。
さらに、同年パリのルーブル美術館のゲストキュレーターを務めたロバート・ウィルソンとの再コラボレーションでは、アンドレア・ソラリオ《洗礼者聖ヨハネの頭を持つサロメ》、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《カロリーヌ・リヴィエール嬢》など、同館のコレクションの中でも最も著名な人物に扮した彼女のポートレートをビデオに収録。歴史に名を連ねる名画からインスパイアされた一連の作品は、今なお世界のアートシーンのインスピレーションソースとなっている。
芸術は、身も心も温かく包んでくれるブランケット
直近では、先のルーヴル美術館名画シリーズでコラボレーションした写真家のロバート・ウィルソンが、彼女を迎えて再現したフランスの新古典主義画家ジャック=ルイ・ダヴィッド作《マラーの死》(1793)のビデオポートレートに、以前のコラボレーションを再編集したものを加えてNFTとしてリリース。世界中の注目を集めたこの作品は、2021年6月24日にニューヨークで開催されたフィリップスの20世紀コンテンポラリーセールに出品され、1万5120ドル(約200万円)で落札された。
デビュー以来、自身のパフォーマンスの高い芸術性と功績、そして芸術教育におけるリーダーシップを発揮してきた彼女は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のチーフキュレーター、クラウス・ビーゼンバックの選出で「American for The Arts 2015 National Arts Awards」でヤングアーティスト賞(2015)を受賞。その後も、メディアやステージなど表舞台での芸術活動に加え、自身がサポーターを務めるニューヨーク・ハンプトンズのアーティストコロニー「ウォーターミル・センター」のアートフェスでは、ボディ・ペインティングやパフォーマンス・アートを披露するなど、精力的にアートと関わってきた。
「私にとって、人生とは芸術そのもの。芸術はときに私たちを愚かにし、苦しめることもあります。ですが、私にとっては身も心もあたたかく包み込んでくれるブランケットのような存在であり、常に私のために『そこにあるもの』です。そして芸術とは、私が経験したあらゆる苦悩から生まれたファンタジーでもあるのです」
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