サッカーは創造力を刺激する! W杯の今こそ見たいアート作品7選

アメリカでは今、FIFAワールドカップ2026の開催に合わせたパブリックアート展示やチャリティオークションが行われている。その注目作品やサッカーがテーマの過去の名作から7点を選んで紹介する。

「The Art of the Game」展に出品されたメリッサ・マギルの作品《These Waters (Hudson River)》(2026)。Photo: Megan Maloy for ARTS 14C, Artwork copyright ©Melissa McGill

容赦なく時を刻み続ける時計、汗にまみれた選手たち、熱狂する観客……。サッカーの試合には、最高の興奮が詰まっている。そして、白熱したゲームを数分間見るだけで、なぜそれが地球上で最も人気のあるスポーツなのかが体感できる。世界の多くが「フットボール」と呼ばれるこのスポーツに夢中になるのは、勝利への渇望が輝くばかりに示されているからだ。そこに渦巻く複雑な感情、競争やスター選手をめぐる政治的側面ゆえに、サッカーはアーティストにとっても魅力的な題材になっている。さまざまなテーマを表現するため、作家たちは伝説的な試合の映像やサッカーに関連するシンボルを作品に取り入れてきた。それらの中にはピッチ上の光景をそのまま反映したものもあれば、実験的なアレンジが加えられたものもある。

非営利の文化プラットフォームであるIMAZ財団は、6月下旬にニューヨークのイベントスペース、アイデアル・グラス・アトリエ(Ideal Glass Atelier)で、資金調達を目的としたオークションに伴う展覧会「Chapter One(チャプター・ワン)」を開催した。展示されたのは、ダスティン・イェリン、ホセ・デュラン、ライアン・シュナイダー、ダイアナ・カーラ・ロウらによるサッカーボールをモチーフとした11点の彫刻作品だ。展覧会はすでに閉幕したが、展示作品はエクアドルの首都キトでのシングルマザー向け住宅建設を支援するためのサイレントオークションにかけられる。このプロジェクトは、支援先と直接関わる地域団体「CAEMBA」とのパートナーシップで実現した。

これとは別に、アートへのアクセス促進を図る非営利団体ARTS 14Cは、「The Art of the Game(アート・オブ・ザ・ゲーム)」と題したパブリックアート展を開催中だ。ニューヨーク市の5つの行政区と、ワールドカップの試合会場となっているイーストラザフォードのメットライフ・スタジアムを含むニュージャージー州の野外スペースで、このプロジェクトのために制作されたサッカーボール型の大規模彫刻23点を見ることができる。美術館関係者などで構成される審査委員会が選出した参加アーティストには、キャサリン・バーンハート、ボニー・ラミレス、エディ・マルティネス、フレッド・ウィルソンらがいる。

以下、サッカー熱が盛り上がっているこの夏に鑑賞すべき7つの作品を紹介しよう。

1. ポール・ファイファー《Jerusalem(エルサレム)》(2014)

ポール・ファイファー《Jerusalem》(2014)の一場面。Photo: Artangel. Artwork copyright © Paul Pfeiffer
ポール・ファイファー《Jerusalem》(2014)の一場面。Photo: Artangel. Artwork copyright © Paul Pfeiffer

イングランドが西ドイツを延長戦の末4対2で下し、優勝を果たした1966年のFIFAワールドカップ・イングランド大会。その決勝戦の映像を用いたポール・ファイファーの作品、《Jerusalem(エルサレム)》に勝者はいない。ロンドンの芸術団体、アートエンジェル(Artangel)の依頼を受けて制作されたこの作品の上映時間はサッカーの試合と同じ90分で、画面の中では有名なウェンブリー・スタジアムを背景にぼやけた人影が交錯する。そこでは、デジタル加工された白黒の映像に合わせて見えない観衆の歓声が響き、笑みを浮かべた女王エリザベス2世が映し出され、幽霊のような選手たちは不思議な力を受けているかように現れては消えていく。バスケットボールやボクシングの試合の映像を使った作品も手がけているマルチメディア・アーティストのファイファーは、サッカーを題材としたこの作品で、権力と政治をめぐるスリリングな視覚的シンフォニーを奏でている。

《Jerusalem》はこちらから一部視聴可能。

2. ダグラス・ゴードンとフィリップ・パレーノ《ジダン 神が愛した男》(2006)

ダグラス・ゴードンとフィリップ・パレーノ《ジダン 神が愛した男》(2006)の一場面。Photo: Artwork copyright © Douglas Gordon and copyright © Phillipe Parreno. Courtesy of the artists and Gagosian
ダグラス・ゴードンとフィリップ・パレーノ《ジダン 神が愛した男》(2006)の一場面。Photo: Artwork copyright © Douglas Gordon and copyright © Phillipe Parreno. Courtesy of the artists and Gagosian

ダグラス・ゴードンとフィリップ・パレーノが共同制作した映像作品《ジダン 神が愛した男》には、執念、崇拝、そして殉教の気配が漂う。90分間にわたり2画面で上映されるこの作品は、2005年4月23日にマドリードのサンティアゴ・ベルナベウ・スタジアムで行われた対ビジャレアル戦で、レアル・マドリードの攻撃的ミッドフィールダー、ジネディーヌ・ジダンの動きだけを追っている。映像に捉えられているのは、サッカー界のレジェンドとなったアルジェリア系フランス人、ジダンの疾風のような動き、そして表情だ。画面には彼のアドレナリン全開のプレーと、チームメイトと言葉を交わし戦術を練る様子が交互に映し出される。17台のカメラで撮影されたこの没入型インスタレーションは、ジダンの中で激しく移ろう感情を、一瞬たりとも見逃さず克明に記録している。

《ジダン 神が愛した男》は、7月19日までニューヨークのグッゲンハイム美術館とマイアミビーチの美術館ザ・バスで上映される。

3. ルシア・イエロ《Untitled(無題)》(2026)

ルシア・イエロ《Untitled》(2026)、ニューヨークのアイデアル・グラス・アトリエで2026年6月24日-28日に開催された「Chapter One」展にて。Photo: Artwork copyright © Lucia Hierro
ルシア・イエロ《Untitled》(2026)、ニューヨークのアイデアル・グラス・アトリエで2026年6月24日-28日に開催された「Chapter One」展にて。Photo: Artwork copyright © Lucia Hierro

アメリカにおけるバスケットボールやボクシングと同じく、特にヨーロッパやラテンアメリカでサッカーと切り離せないのが労働、人種、アイデンティティの問題だ。貧困世帯が多い地域では、しばしばプロのサッカー選手になることが若者たちの目指すべきゴールとして掲げられる。そして、世間はその夢を実現した者の一挙手一投足に関心を向け、生い立ちを詮索する。ニューヨークを拠点とするアーティストのルシア・イエロは、ありふれた工業製品をモチーフにした大型の立体作品で知られ、コネチカット州リッジフィールドのオルドリッチ現代美術館で2021年から22年にかけて開催された個展でもそうした作品を披露していた。そのイエロが、IMAZ財団の「Chapter One」展とサイレントオークションのために制作したのは、ナイロン製のサッカーボール型作品だ。赤・白・青のナイロン生地は、食材や日用品を入れるためにアジアで広く使われている買い物袋を思わせる。ありふれた消耗品であるこうした袋は、移動やたゆまぬ労働、そして反復を連想させる。だが、遊び心に満ち、かつ挑発的なイエロの表現は、集団の持つ力や人々が分かち合う喜びをも感じさせる。

《Untitled》はこちらから閲覧可能。

4. ジャメル・ロビンソン《Free by Fire(火がもたらす自由)》(2026)

ジャメル・ロビンソン《Free by Fire》(2026)、ニューヨークのアイデアル・グラス・アトリエで2026年6月24日-28日に開催された「Chapter One」展にて。Photo: Artwork copyright © Jamel Robinson
ジャメル・ロビンソン《Free by Fire》(2026)、ニューヨークのアイデアル・グラス・アトリエで2026年6月24日-28日に開催された「Chapter One」展にて。Photo: Artwork copyright © Jamel Robinson

エクアドルのキトで住宅問題に取り組む団体「Raíz-Caemba(ライス=カエンバ)」への寄付を目的として、IMAZ財団が行うオークションに参加しているアーティストの1人がジャメル・ロビンソンだ。ニューヨークを拠点とするロビンソンもまた、とてつもない熱狂を生むサッカーの過酷な側面を探求している。半分に切られたサッカーボールは元の姿をとどめないほど大きく変形し、赤と白と黒で塗られた外側には「FREE」の文字が配されている。また、中に詰められた煎った米に十字形に打ち込まれているのは、11本の金色の釘だ。ロビンソンは主に抽象作品を制作しているが、時折にそこにボクシングのモチーフを取り入れることがある。サッカーボールを模したこの作品では、中央に並ぶ2本の塗料攪拌棒がアーティストとアスリートの関係を表している。

《Free by Fire》はこちらから閲覧可能。

5. メリッサ・マギル《These Waters (Hudson River)(この水域 [ハドソン川] )》(2026)

メリッサ・マギル《These Waters (Hudson River)》(2026)、ニューヨークとニュージャージーで開催中の「The Art of the Game」展にて(9月7日まで)。Photo: Artwork copyright © Melissa McGill. Photo: Megan Maloy for ARTS 14C
メリッサ・マギル《These Waters (Hudson River)》(2026)、ニューヨークとニュージャージーで開催中の「The Art of the Game」展にて(9月7日まで)。Photo: Artwork copyright © Melissa McGill. Photo: Megan Maloy for ARTS 14C

アートNPOのARTS 14Cは、ニューヨークとニュージャージーのワールドカップ開催委員会と提携し、パブリックアートプログラム「The Art of the Game」を開催している。このプログラムで展示中のメリッサ・マギル作品、《These Waters (Hudson River)(この水域 [ハドソン川] )》が感じさせるのは速度だ。ニューヨーク州ビーコンを拠点に活動するマギルは現在、ヴェネチアで水位上昇が水の都にもたらす危機を表現した新作《Marea(潮の流れ)》を展示している。《These Waters (Hudson River)》は、巨大なサッカーボールの表面が海のように見え、陽光にきらめく波がリズムに合わせて揺れるさまを捉えた図像には本当に動いているかのような躍動感がある。マギルは錯視効果を駆使して気候変動が海に与える影響を表現してきたが、ニュージャージー州ホーボーケンのハドソン川沿いにあるマックスウェル・プレイス・パークに設置されたこの彫刻は、特にそのメッセージ性が際立っている。

The Art of the Game」展は9月7日まで開催中。

6. ボニー・ラミレス《Flora of Communication(伝達の植物)》(2026)

ボニー・ラミレス《Flora of Communication》(2026)、ニューヨークとニュージャージーで開催中の「The Art of the Game」展にて(9月7日まで)。Photo: Artwork copyright © Bony Ramirez @bonyramirezz. Photo: Megan Maloy for ARTS 14C
ボニー・ラミレス《Flora of Communication》(2026)、ニューヨークとニュージャージーで開催中の「The Art of the Game」展にて(9月7日まで)。Photo: Artwork copyright © Bony Ramirez @bonyramirezz. Photo: Megan Maloy for ARTS 14C

アートNPOのARTS 14Cも、23点の巨大なサッカーボール型彫刻で構成される「The Art of the Game」展に合わせ、資金集めのオークションをクリスティーズと提携して行っている。その一翼を担うのが、ドミニカ共和国出身でニューヨークを拠点に活動するボニー・ラミレスの作品だ。奇抜なタッチで活気あふれる南の島の暮らしを描きつつ、搾取や収奪を仄めかすことで、ラミレスは美しさや観光地といった概念に揺さぶりをかける。そしてその絵画作品では、ジェンダーを示すあいまいな記号を伴う歪んだ身体が、しばしば自然界のリズムを背景にして描かれる。メットライフ・スタジアムに設置された巨大なサッカーボール型彫刻も、そうした自然界のモチーフで包み込まれるように血管のような赤いつるが表面を這い、六角形の中には困惑した表情やコミカルな顔が描かれている。

The Art of the Game」展は9月7日まで開催中。

7. リンドン・J・バロワ・シニア「Fútbol Is Life(サッカーは人生)」展

リンドン・J・バロワ・シニア《Fútballet(部分)》(2018)、「2015年、アメリカのゴールキーパー、ホープ・ソロがオーストラリアのシュートをスーパーセーブ」。Photo: Artwork copyright © Lyndon J. Barrois, Sr., courtesy of the artist.
リンドン・J・バロワ・シニア《Fútballet(部分)》(2018)、「2015年、アメリカのゴールキーパー、ホープ・ソロがオーストラリアのシュートをスーパーセーブ」。Photo: Artwork copyright © Lyndon J. Barrois, Sr., courtesy of the artist.

サッカーが世界中でこれほど大きな影響力を持つ理由の1つは、ヒエラルキーのない平等性にある。何しろ、2つのチームの対戦に必要な物はボール1つだけなのだ。サンパウロの貧民街からロンドンの郊外に至るまで、空き地さえあれば若者たちは自由にサッカーを楽しむことができる。ロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)で開催中のリンドン・J・バロワ・シニアの展覧会「Fútbol Is Life(サッカーは人生)」では、ガムの包み紙を素材とした作品でこのスポーツの平等性を称えている。アニメーター、そしてVFX(視覚効果)の専門家として知られ、アートコレクターでもある彼は、ありふれた使い捨ての素材と少量の絵の具や接着剤を用い、鮮やかな色彩と躍動感あふれるポーズで男女のサッカー選手たちを表現する。コマ撮りアニメや大小の彫刻など、多岐にわたる作品でワールドカップの名場面を再現した展示には、リオネル・メッシやマルタ・ヴィエイラ・ダ・シルバ(ブラジル出身の女子サッカー選手)といったスーパースターも登場する。

Fútbol Is Life」は、7月26日までLACMAで開催中。

(翻訳:野澤朋代)

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