女王ハトシェプスト像は「復讐」による破壊ではなかった? 新研究が示す別の可能性
- TEXT BY ANNE DORAN
古代エジプトの経済成長や政治的安定など、多くの功績を残した女王ハトシェプストだが、彼女の痕跡の多くは残っていない。これまでは後継者が復讐として破壊したと考えられてきたが、最新の研究により、別の可能性が浮上した。
古代エジプトで最も権力を持った女性統治者のひとり、ハトシェプスト(紀元前1505年頃〜1458年頃)は、同時に顕著な功績を残した君主でもあった。旧来の交易路を再開通させ、デル・エル・バハリの葬祭殿をはじめとする大規模建築を推進し、政治的安定と経済成長、さらには芸術の発展をもたらした人物として知られている。彼女は夫トトメス2世の死後、幼い義理の息子トトメス3世の摂政となったが、数年後には自らファラオを名乗り、生ける神として統治した。
だが、20年にわたる彼女の治世の痕跡は意図的に破壊されていたことが、20世紀に葬祭殿の発掘によって明らかになった。壁面やオベリスクのカルトゥーシュは削り取られ、彫像は砕かれて無数の破片となっていた。こうした破壊は、後継者トトメス3世の復讐によるものと長らく考えられてきた。しかし近年では、男性継承者の正統性を強調する意図や、女性による統治の正当性を否定する目的など、より制度的・政治的な理由が指摘されている。
しかし、トロント大学でエジプト学の博士課程に在籍するジュン・イー・ウォンは、学術誌『Antiquity』に掲載された論文で、この損傷についてより多角的な説明を展開している。発掘記録を再検証したウォンは、神殿の壁面からハトシェプストの名前と姿が消されたことにトトメス3世が関与していたのは確かだとしつつも、その動機については依然として議論の余地があると論じている。
一方でウォンは、ハトシェプストの彫像に見られる損傷には複数の要因があるとみている。首・腰・膝といった部位に集中する破壊は意図的なもので、トトメス3世による霊的能力の無効化儀式の痕跡だと指摘する。その後に生じた多くの損傷については、無効化された彫像が建材や埋め立て材として再利用された結果ではないかとみている。
ハトシェプストが他のエジプト王と比べて激しい迫害を受けたのは確かだ。ただし、主要な神殿に限られた破壊行為は、憎悪というより儀礼的必要に基づくものだった可能性が高いとウォンは結論づけており、彫像に見られる損傷の多くには明確な意図がなかったとも指摘する。この研究について、シカゴ大学エジプト学・近東言語文明学の名誉教授ピーター・F・ドーマンは次のように述べている。
「彼女の姿や名への残りの攻撃は、本質的には男性としての王権の抹消ないし書き換えであり、それ以前の王妃としての表象はほとんど手つかずのままでした。こうした細部の精査は、古代史の政治的文脈を解釈するうえで不可欠です」
(翻訳:編集部)

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手形部分のクロースアップ。Photo: Courtesy of The Fitzwilliam Museum
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遊覧船の遺構の3D写真測量図。Photo: Christoph Gerigk ©Franck Goddio/Hilti Foundation

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発見された、ラムセス3世のカルトゥーシュが刻まれた金の指輪。Photo: Instagram/Luxor Times

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ツタンカーメン以来100年ぶりの快挙! 謎の王トトメス2世の墓を発見|エジプト観光・遺跡省は、古代エジプトのファラオ、トトメス2世の墓を発見したと発表した。これは1922年にイギリスの考古学者ハワード・カーターによってツタンカーメン王の墓が発見されて以来、実に103年振りの王族の埋葬室の発見となる。【続きを読む】Photo: Courtesy the Egyptian Ministry of Tourism and Antiquities

「謎の王トトメス2世のミイラはここにある」──発掘チームが考古学史を覆す仮説を発表|古代エジプト第18王朝のファラオ、トトメス2世の墓が発見されたニュースは、古代遺跡ファンを大いに沸かせた。それ以外にも発掘チームは、この場所にトトメス2世のミイラが眠る墓室があると考えている。【続きを読む】Photo: Getty Images
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ギザの大ピラミッドを作業員が打ち砕く動画がSNSで炎上|ギザの大ピラミッドでハンマーやノミなどの道具を使って作業する作業員の動画がソーシャルメディアで拡散された後、「管理のずさんさ」を非難するエジプト学者やエジプト議会が声明を発表するなど物議を醸している。【続きを読む】Photo: Anadolu via Getty Images
大エジプト博物館がついに開館! ツタンカーメン王墓の「完全再現」も|たび重なる開館延期を経て、大エジプト博物館が11月1日にすべての展示施設を一般公開した。これまで未公開だった遺物の数々や、ギザのピラミッドを望む大階段など、見どころ満載だ。【続きを読む】Photo: Rehab Eldalil
ツタンカーメン王のマスクを一目見ようと来場者が殺到した。Photo: Kenneth Garrett
大エジプト博物館の奥にはピラミッドが。周辺地域は大規模な再開発が行われ、宿泊施設やレストラン、ショッピングモールなどが立ち並ぶ。Photo: Courtesy of Grand Egyptian Museum
古代エジプトの「魔術師」が眠る墳墓を発見!|古代エジプト王のペピ2世が統治していた時代に生きた医師「ティティ・ナブ・フ」の墓が調査チームによって発見された。独特な彫刻やドローイングで墓は彩られており、当時の日常生活や文化の解明につながるとエジプト政府は発表している。【続きを読む】
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