世界のトップコレクターたちは今年なに買った!? 47名の購入作品を大公開
毎年恒例、US版ARTnews「TOP 200 COLLECTORS」の2024年版が発表された。世界有数の大コレクターたちはいったいどんな作品を買っているのか、この1年間の購入作品について47人からの回答をまとめた。
US版ARTnewsがその年に最もアクティブだった世界のアートコレクター200人を称える「TOP 200 COLLECTORS 2024年版」を発表した。今年もジェフ・ベゾス、ベルナール・アルノー、フランソワ・ピノーといった実業界の重鎮をはじめ、ジョージ・ルーカスや“スウィズ・ビーツ”・ディーンとアリシア・キーズ、ジェイ・Z、ミウッチャ・プラダ、ラフ・シモンズなどおなじみの面々が顔を揃えた。日本からは、大林剛郎、柳井正、田口弘・田口美和に、今回新たに精神科医の高橋龍太郎と実業家・投資家の植島幹九郎が選ばれている。
アート界ではこのところ、市場の低迷に関する話題が引も切らない。しかし、「TOP 200 COLLECTORS 2024年版」に選ばれたコレクターたちは、それに影響されることなく、さまざまな作品を購入して膨大なコレクションをさらに充実させている。そこでこの1年、どんな作品を入手したのかを彼らに振り返ってもらった。また、何人かのコレクターには、購入した作品のどこに惹かれたのかを聞いている。
最近購入した作家として名前が上がったのは、パブロ・ピカソ、ヘレン・フランケンサーラー、ロバート・コレスコット、ロバート・ラウシェンバーグ、フェリックス・ゴンザレス=トレス、ジローラモ・ダ・サンタクローチェなどの美術史に名を残す巨匠から、シアスター・ゲイツ、チャバララ・セルフ、ウッディ・デ・オセロ、ジョーイ・テリル、ダニエル・マッキニー、エマ・ウェブスター、ジェシー・ダーリングなど、今注目の現代アーティストまで幅広い。
以下、トップ200コレクターたちが最近購入した作品の一端を紹介しよう(2024年のコレクター一覧はこちらから)。
1. 高橋龍太郎
TOP 200 COLLECTORS初登場の高橋龍太郎は、平面作品でありながら彫刻のようなボリューム感を備えた絵画を制作する水戸部七絵の作品を購入。中でも《Blue figura》(2023-24、画像参照)は、水戸部にとって最大の作品だ。高橋はUS版ARTnewsに、「純粋に、彼女の作品の過剰さに惹かれるのです」と語っている。
2. ローラン・アッシャー
ローラン・アッシャーは、来春イタリアでAMAヴェネチア財団の設立を予定している。その準備を進める中で、ジョナス・ウッドの《L.A. Window》(2023)やジャデ・ファドジュティミの《Plum are not plum until you think about plum and realize there no plum to be seen》(2023)、チャールズ・レイの手漉き紙を用いた彫刻《Everyone takes off their pants at least once a day》(2024、画像参照)などを購入した。
3. ペドロ・バルボサ
ペドロ・バルボザは関心のあるアーティストを深掘りしていくタイプのコレクターだ。それは彼が今年購入した作品からもわかる。その中にはジスレイン・レオンとK・P・ブレマーによる複数の作品、カロリーナ・コルデイロの刺繍作品、レスリー・ソーントンによる4Kビデオ作品《Tunneling》(画像参照)などがあるが、どれも「ある意識の流れを構成する一部」だと彼は語っている。
4. アリソン&ラリー・バーグ
最近バーグ夫妻が購入した作品の中には、ダルトン・パウラ、レイチェル・マーティン、ビル・トレイラーのドローイング、ゲイリー・シモンズ、マルシア・ファルカンの絵画、アイズラン・パンカラルの《River of Desires》(2023、画像参照)、リー・ボンテクー、ミレ・リー、イオネ・サルダーニャの彫刻がある。彼らは2023年のサンパウロ・ビエンナーレを訪れた際にブラジル在住アーティストのスタジオを訪問しており、それを機に購入された作品もいくつかある。
5. アニタ・ブランチャード、マーティン・ネスビット
シカゴを拠点とするコレクター、アニタ・ブランチャードとマーティン・ネスビットは、ソニア・ゴメス、ディエゴ・モウロ、ダルトン・パウラ、フラビオ・セルケイラ、タダスキア、ジョーダン・カスティール、シアスター・ゲイツ、タイタス・カファーの作品、そしてエマノエル・アラウージョの《Navio》(2021、画像参照)を購入した。
6. スザンヌ・ディール・ブース
スザンヌ・ディール・ブースが最近購入した作品は、ルイーズ・ブルジョワ、アグネス・マーティン、草間彌生といった著名女性アーティストの歴史的作品から、蘇笑柏(ス・シャオバイ)、ペドロ・レイエス、テレサ・アンコマ、ルバイナ・ヒミッド(2024年度スザンヌ・ディール・ブース/FLAGアート財団賞受賞者)の近作まで多岐にわたる。ナパの自宅には、主にカリフォルニアを拠点とする新進アーティストの作品を飾っているが、そこには今年、ウッディ・デ・オセロの立体作品《Full Touch》(2023、画像参照)が加わった。
7. エストレリータ&ダニエル・ブロツキー
ブロツキー夫妻が最近購入した作品の多くは、エストレリータがニューヨークのチェルシー地区で運営するNPO、「アナザー・スペース」で行っているリサーチに関連したものだ。モニカ・ヒロン、ルクレシア・リオンティ、クラウディア・アラルコンのテキスタイルアートのうち、アラルコンの作品は今年のヴェネチア・ビエンナーレで展示するために貸し出されている。また、アラルコンの《The Origin of the River》(2023、画像参照)は、ニューヨーク州イーストハンプトンにあるギルドホールで開催されたブロツキー・コレクションのテキスタイル作品展で展示された。
8. ジェームズ・キース・“JK“・ブラウン、エリック・ディーフェンバック
ジェームズ・キース・“JK”・ブラウンとエリック・ディーフェンバックは、この1年間に展覧会で見て気に入った作品を購入している。たとえば、スカルプチャー・センター(ニューヨーク)で開催されたコヴィー・ゴンの展覧会で見た《TRD-FN-052403》(2024)や、アルドリッチ現代美術館(コネチカット州)の「52 Artists: A Feminist Milestone」展に展示されていたシンシア・カールソンの歴史的絵画だ。そのほかの購入作品は、ラインハルト・ポッドの1982年の抽象画や、ジョーイ・テリルのミクストメディア・コラージュ作品《Still-Life with Triumeq, Spearmint and Generic PrEP》(2024、画像参照)など。
9. パトリシア・フェルプス・デ・シスネロス
パトリシア・フェルプス・デ・シスネロスが最近購入したのは、イェクワナ族のダワネデュ・エマジェネワ(Dawanedü Emajenewa)が制作した編み籠だ(画像参照)。シスネロスの家族は、40年以上前からベネズエラのオリノコ川流域に住む12の部族の作品を収集しており、この籠もそのコレクションに加わった。
10. イザベル&アグスティン・コペル
コペル夫妻は、マーサ・ユングヴィルトやヒメナ・ガリド=レッカの作品、そしてシアスター・ゲイツの《Blue Roof Study》(2023、画像参照)を購入している。また、メキシコのクリアカンに所有している植物園に設置するため、リクリット・ティラヴァニにデザインを依頼したパビリオンの仕上げにも取り組んでいる。
11. ベス・ルーディン・デウッディ
ベス・ルーディン・デウッディは自らの収集方針をこう語る。「私が作品を買うのは、それに心惹かれるからです。これまで築いたコレクションに合うかどうかは、あまり気にしません」。最近の購入作品には、トラヴィス・フィッシュ、エリン・M・ライリー、ジュリア・シャー、そしてマティアス・サウテル・モレラの「Pegamachos」シリーズの写真(画像参照)などがある。
12. ロンティ・エバース
この1年、「すでに作品を保有しているアーティストをさらに探求する」ことに注力してきたというロンティ・エバースは、草間彌生が1965年に制作した壁掛けの「集積」作品(画像参照)や、工藤哲巳の1980年のミクストメディア彫刻、ピエール・ユイグが2024年に手掛けた「イディオム」シリーズのマスクを購入した。
13. ニコラ・エルニ
戦後~現代の著名アーティストの作品とファッション写真のコレクションを持つニコラ・エルニ。最近彼女は、23枚の写真で構成されるニック・ワプリントンの「Living Room Series」(1985-97)、ロバート・ラウシェンバーグがコラージュの手法で制作した壁掛けレリーフ《Market Altar / ROCI MEXICO》(1985、画像参照)、ナム・ジュン・パイクの《Fractal Flasher》(1994)を入手した。パイクの作品について彼女はこう語っている。「私はビデオ彫刻の先駆者である彼が好きで、作品を何点か所有しています。この作品は写真との関連性が感じられることから特に惹かれました。上部には旧式のフラッシュ、側面には旧式のカメラというように、古い部品を組み込んでいるのが面白いと思います」
14. マイケル・フォーマン、ジェニファー・ライス
マイケル・フォーマンとジェニファー・ライスが購入したのは、南アフリカ生まれのアーティスト、マルレーネ・デュマスの作品で、人種隔離政策が同国で撤廃されて間もない1994年に描かれた《Love Your Neighbor》(画像参照)だ。2人は作品についてこう語っている。「視覚的に素晴らしいだけでなく、それが描かれた時代を象徴しています。絵の中の人物たちが強烈な存在感を放っているので、見る者は自然と彼らを身体的特徴でカテゴライズしようとしますが、彼ら一人一人の特性は曖昧で、はっきりと区別することはできません。結果的に鑑賞者は、この匿名の人物たちがどんな人なのかを自分自身で考えることになります。当時デュマスの周りで起こっていた大変革が背景にあることが見て取れます」
15. アマンダ&グレン・R・ファーマン
ファーマン夫妻が最近購入した作品には、ヴィヤ・セルミンス、ソマヤ・クリッチロー、レジー・バローズ・ホッジス、ニコラ・パーティ、ウィンフレッド・レンバートの絵画や、チャバララ・セルフによるミクストメディア作品《Hear No》(2023、画像参照)がある。
──この1年で最高のアート体験は何でしたか?
かれこれ1年以上、ランドアートで知られるアンディ・ゴールズワージーと共に、ロングアイランドの自宅でサイトスペシフィックな作品の制作に取り組んできました。これは私たちにとって、今までで最も充実したアート体験です。コレクターが創作過程にこれほど関与するのは珍しいことですし、アンディと緊密な共同作業ができて本当に幸運でした。彼は私たちの家に長期滞在しながら、土地の感触を確かめ、作品の構想を練ってくれました。私たちもスコットランドやメイン州を訪れ、依頼した作品に関連するアンディのほかのプロジェクトを見て回りました。秋には作品の設置が始まる予定で、完成までには数週間かかるでしょう。完成した作品そのものだけでなく、彼と一緒に設置作業を体験するのをとても楽しみにしています」
16. デニス&ゲイリー・ガードナー
ガードナー夫妻は、数年前からジョーダン・カスティールの絵画を収集している。今年は、「彼女のキャリアのさまざまな段階の作品を揃える」ため、2023年の静物画《Garden (Thai Hot)》(画像参照)をコレクションに追加した。
17. ギエルモ・ゴンザレス・グアハルド、ヤナ・サンチェス・オソリオ
今年新たにTOP 200 COLLECTORSにランクインしたギエルモ・ゴンザレス・グアハルドとヤナ・サンチェス・オソリオは、メキシコシティの現代アートフェア、ソナ・マコ2024の開催期間中、同市のローマ地区にオリビア財団(画像参照)をオープンさせた。20世紀初頭に建てられたタウンハウスの中にあるこの展示スペースには、ジョアン・ミッチェル、ヘレン・フランケンサーラー、リー・クラズナー、セシリー・ブラウン、キャロル・ボヴェ、リタ・アッカーマン、ジャデ・ファドジュティミ、ルーシー・ブル、シャラ・ヒューズなど、世代を超えたさまざまな女性画家の抽象画が並ぶ。さらに最近、マーサ・ユングヴィルトやウィレム・デ・クーニングの作品も購入した。
18. オルテンシア・エレーロ
オルテンシア・エレーロも、今回TOP 200 COLLECTORSに初登場したコレクターの1人。スペインのバレンシアで私設美術館をオープンするのを前に、彼女はアンゼルム・キーファーのミクストメディア作品《Der Tod und das Mädchen》(2018、画像参照)を購入した。この作品は、キーファーによる他の2点の大作とともに、新しい美術館のメインギャラリーに展示される。
19. J・トミルソン・ヒル
歴史的な作品から現代アートまでをコレクションするJ・トミルソン・ヒルが購入したのは、フランチェスコ・セガラが16世紀中頃に制作したヘラクレスのブロンズ像と、シャルライン・フォン・ハイルが2022年に手がけた《Viper》(画像参照)で、後者は最近ニューヨークのヒル・アート財団で展示された。ヒルは《Viper》についてこう話している。「これを手にして以来、フォン・ハイルの制作活動に対する理解をもっと深め、その作品をもっとコレクションに加えたいと思うようになりました」
20. ケント・ケリー
ケント・ケリーが購入したのは、メリーランド州を拠点に活動するエチオピア生まれのアーティスト、メリコケブ・ベルハヌの《Untitled LXXII》(2021、画像参照)だ。ケリーがベルハヌの作品を初めて目にしたのは2022年のヴェネチア・ビエンナーレでのことだったという。そのほか、レイラ・フェイ、ガブリエル・ミルズ、ジュリー・ボーフィルスの作品もコレクションに加わった。
21. エリー・クーリ
エリー・クーリの最近の購入作品には、ジョーン・センメル、ロベルト・ジル・デ・モンテス、ルイーズ・ボネ、ケンチュラ・デイヴィスの絵画、そしてエマ・ウェブスターの《None of What Kept Time Once Works》(2023、画像参照)がある。
22. グラジナ・クルチク
グラジナ・クルチクは、一般にはあまり知られていない女性アーティストの作品を重点的に収集している。その彼女は今年、「かなり前から辛抱強く作品を探していた」2人の現代アーティスト、リネット・ヤドム=ボアキエとジェナ・グリボンの作品を購入した。クルチクはヤドム=ボアキエの《Highlights for Limelights》(2024)とグリボンの《The Burden of Restraint》(2024)について次のように語っている(画像参照)。「2人はほぼ同じ年齢ですが、それぞれ全く異なる方法で人間性を探求・描写し、嘘のない感情で見る者を引き込みます」
23. バーバラ&ジョン・ランドー
ランドー夫妻は、ティントレット、クールベ、コローの絵画に加え、16世紀ナポリの彫刻家、ジローラモ・ダ・サンタクローチェの彫刻、聖ベネディクト像と洗礼者ヨハネ像を購入した(画像参照)。夫妻がこの作品を初めて見たのは30年前のことだったが、その時は購入に至らなかったという。「当時、私たちはこの作品に惹かれてはいましたが、その素晴らしさを十分に認識できるほど彫刻について詳しくなかったのです。でも、最近再び目にしたとき、この2点がどれほど完璧な作品であるか改めて気づかされました」。ランドー夫妻はまた、今回購入した2点の彫刻が「40年間収集を続けてきた中で、幸運にも入手できた逸品の1つ」だと語っている。
24. ミヨン・リー
TOP 200 COLLECTORS初登場のミヨン・リーは、ホイットニー美術館の理事会でバイスプレジデントを務めている。最近彫刻に惹かれているという彼女は、今年開催された大規模展覧会で見たアーティストの作品を購入。たとえば、ホイットニー・ビエンナーレに出展していたジェス・ファン、ヴェネチア・ビエンナーレのカナダ館の代表を務めたカプワニ・キワンガ、ヨークシャー彫刻公園で作品を発表したレイラ・バビリエ、そしてジェシー・ダーリングの《Self-portrait (Boring from within)》(2023、画像参照)などだ。
25. リズ&エリック・レフコフスキー
レフコフスキー夫妻の購入作品には、ゲイリー・シモンズの《Crazy Conductor》(1993、画像参照)や、シモーヌ・リーの《Cupboard》(2024)などがある。
26. リー・リン
リー・リンは、アンドレアス・エリクソンの抽象画《Single Cutout 12》(2022、画像参照)を購入した。
27. チーチ・マリン
チーチ・マリンは、ウィングゲート財団およびカリフォルニア州のリバーサイド美術館と共同で、イスラエル・アレハンドロ・ガルシア・ガルシアの《Mojado No.1》(2023、画像参照)を購入。この作品には、アメリカとメキシコの国境で命を落とした移民の推定人数を表示するデジタルカウンターが組み込まれている。マリンはUS版ARTnewsにこう語った。「このアーティストの作品には、移民の体験が記録されています。彼は、故郷を離れざるを得なかった人々が住む周縁的なコミュニティを訪れ、そこで情報やアイデア、イメージ、オブジェ、ストーリーを収集しながら作品を生み出しているのです」
28. スーザン&ラリー・マルクス
抽象表現主義の充実したコレクションを持つマルクス夫妻は、グレース・ハーティガンの大作《Montauk Highway》(1957、画像参照)を入手。夫妻はこの作品を、今年5月のフィリップスのオークションで、100万ドル(約1億5000万円)弱で落札した。
29. スザンヌ・マクフェイデン
TOP 200 COLLECTORS初登場のスザンヌ・マクフェイデンは、ヘンリー・テイラーによる3部構成のドローイング《I got it from》(2023、画像参照)などを購入した。
──このドローイングの何に惹かれたかを教えてください。
作品に書かれているテキストの大胆さが気に入っています。いたずらっぽさがありながらも、今ここにいる私は先人の肩の上に立っているのだということ、先祖たちが夢見ることしか叶わなかった人生を送っているということに思い至ります。物事が思い通りに進まないときにこの作品を見ると、昔の人たちとは違って、私には選択肢があり、自分で自分のことを決められる自由があるのだと思わせてくれます。
30. アンドレア&ジョゼ・オリンピオ・ペレイラ
ペレイラ夫妻は、タダスキアのドローイング(画像参照)や、アートコレクティブMAHKUのメンバーであるカシア・ボルヘスの陶器のインスタレーション、エレオノーレ・コッホによる5点の絵画などを購入した。
31. マーシャ&ジェフリー・ペレルマン
ペレルマン夫妻が最近購入した作品には、ヴィヤ・セルミンスの《Blackboard Tableau #10》(2007-15、画像参照)や、エルズワース・ケリーが1983年にアルミニウムに描いた無題の絵画などがある。
32. エイミー&ジョン・フェラン
フェラン夫妻は、所有するコロラドの牧場に設置するため、関根伸夫の《Phase of Nothingness》(1969/2020、画像参照)を購入した。
33. スルタン・スード・アル・カセミ
スルタン・スード・アル・カセミは、カドリア・フセインによる肖像画(制作年不明、画像参照)や、ムハンマド・オマル・ハリルの《Homage to Paulo Uccello》(1966)など、主に歴史的な絵画を購入している。
──カドリア・フセイン作品の購入動機を教えてください。
バルジール芸術財団のコレクションに加えるために最近購入した作品の1つが、カイロ生まれのアーティストでエジプト王室の一員だったカドリア・フセイン(1888-1955)の《The Spiritual Queen Isa》です。エジプトの先駆的女性作家である彼女の仕事、そして十分に認知されていないものの注目に値する作品群は、私たちの文化史の重要な一部です。その作品を保存し、展示することで、彼女自身の業績を称えるだけでなく、ともすると見落とされがちなアラブ世界における女性たちの物語に光を当てることができます。それによって、芸術と社会に対する女性たちの貴重な貢献をより深く理解し、味わうことができるようになるのです。
34. パトリツィア・サンドレット・レ・レバウデンゴ
世界各地の新進アーティストを支援していることで知られるパトリツィア・サンドレット・レ・レバウデンゴは、プレシャス・オコヨモン、ジャスティン・カギアット、パウリナ・オウォフスカ、モハンマド・サーミの作品、そしてダニエル・マッキニーの《She》(2023、画像参照)を購入した。彼女は作品についてこう話している。「これらのアーティストたちはそれぞれ異なるメディアやアプローチを用いていますが、どれも今の時代の複雑さについて深く考えさせてくれます」
35. ルベル・ファミリー
ルベル・ファミリーは最近、マイアミにあるルベル美術館の2024年アーティスト・イン・レジデンスに選ばれたヴァネッサ・ローの作品を複数購入した。《When I talk to the night》(2023、画像参照)などのローの作品について彼らは、「緑豊かでロマンチックな風景の中で女性たちの親密な関係を感じさせるシーン」の描写に惹かれたと話している。
36. ピート・スキャントランド
この1年、貪欲に作品を収集してきたピート・スキャントランドは、キャロル・ボヴェ、マリオ・アヤラ、サーシャ・ゴードン、レベッカ・モリス、リー・ヘイ・ディ、ロビン・F・ウィリアムズ、ルイス・フラティーノなどの作品や、ライアン・プレシアドの《Time to find me》(2023、画像参照)を購入した。
37. ジョーダン・シュニッツァー
ジョーダン・シュニッツァーは、メル・ボックナー、キース・ヘリング、ジャスパー・ジョーンズ、チャールズ・ゲインズ、エイミー・シェラルド、フェイス・リンゴールドなどの版画に加え、ロバート・コレスコットの絵画作品《Pancho Villa》(1971、画像参照)を購入した。
──コレスコットの作品を購入した理由を教えてください。
私の亡き母アーリーン・シュニッツァーは、ロバート・コレスコットの主要ディーラーを務めていました。私たちの家族は、コレスコットの絵画17点と全版画作品を所有しています。数カ月前に《Pancho Villa》(1971)が売りに出されたとき、ぜひコレクションに加えたいと思いました。この絵には、非白人の人々が踊ったり戦ったりしている様子など、コレスコットの絵に典型的なイメージがたくさん詰まっています。そして、それら全てが歴史的な文脈の中で描かれているので、私たちのアイデンティティについて考えさせられるのです。
38. サラ&ジョン・シュレシンジャー
アトランタを拠点とするシュレシンジャー夫妻が最近購入した作品には、アンソニー・アキンボラ、ローレン・ホールジー、ジョーン・スナイダー、ジャマール・ピーターマン、グレン・カイノの作品のほか、レイチェル・ロシンの《Hologram Combine》(2023、画像参照)がある。
39. ゲイリー・スティール、スティーブン・ライス
ゲイリー・スティールとスティーブン・ライスが最近購入したのは、ハウザー&ワースが2023年にパリで新設したギャラリーの初展覧会でヘンリー・テイラーが発表した《Right hand, wing man, best friend, and all the above!》(2023、画像参照)だ。ハーレムのスタジオ・ミュージアムに寄贈される予定のこの肖像画には、テイラーと彼の画家仲間だった故ノア・デイヴィスが一緒に描かれている。スティールとライスは、「ヘンリーとノア・デイヴィスの深い友情を描いたこの絵が醸し出すエネルギーにとても惹かれました」と語っている。
40. ユリア・シュトーシェック
ユリア・シュトーシェックが最近購入した作品の中には、異なる時代に制作された3つの映像作品がある。ヴァギナル・デイヴィスの《The White to be Angry》(1999)、ソンドラ・ペリーの《Double Quadruple Etcetera Etcetera I & II》(2013)、そしてルー・ヤンの《DOKU The Flow》(2024、画像参照)のうち、ペリーの作品についてシュトーシェックはこう語る。「10年以上前の作品にもかかわらず、驚くほど現代的に感じられます。今を生きる私たちに切実に訴えかけ、デジタルメディアやパフォーマンス・アートにインパクトを与えたこの作品は、影響力のある先進的現代アートを保存するという私たちのコミットメントを反映するものとして、コレクションの重要な一部になりました」
41. カール&マリリン・トーマ
トーマ夫妻は、インカ・ショニバレの立体作品《Refugee Astronaut VIII》(2024、画像参照)や、エリアス・シメの《Tightrope: Dichotomy 6》を購入した。ショニバレの作品はヴェネチア・ビエンナーレのメイン展示に出品され、シメの作品は同時期にヴェネチアで開催された個展で発表されたもの。
42. ロビ&ブルース・E・トール
エリザベス朝時代から20世紀初頭にかけて制作された美術品のコレクションで知られるロビとブルース・Eのトール夫妻は、フランスのサントロペで見かけたKaiという名の新進アーティストの作品をいくつか購入した。《Love hold us together》(画像参照)などの作品は、彼らが所有する屋外彫刻庭園に飾られるという。最近のコレクションについて、ブルースはこう語っている。「私の考えでは、値上がりを期待してアートを買うべきではありません。私は好きな作品を買っていますが、それがコレクターの取るべき唯一の収集方針だと思います」
43. ジョセフ・ヴァスコヴィッツ、リサ・グッドマン
ジョセフ・ヴァスコヴィッツとリサ・グッドマンは最近、ルーク・アガダの絵画《Unstill Life II》(2023)と、ベサニー・コリンズの《In Mississippi》(2019、画像参照)を購入した。コリンズの作品は、奴隷だった人々が生き別れになった家族との再会を願い、南北戦争後に新聞に出した尋ね人広告を黒い水彩紙にエンボス加工したものだ。巡回展「The Dirty South: Contemporary Art, Material Culture, and the Sonic Impulse」に出品されたこの作品を、2人は複数の会場で鑑賞していたという。
44. メイ&アラン・ウォーバーグ
ウォーバーグ夫妻は、カリフォルニア州ソノマにあるワイナリーのドナム・エステートに、大規模なコミッション作品を毎年加え続けている。最近新たに設置されたヤン・バオによる大型彫刻《HYPERSPACE》(2024、画像参照)は、サウンド・アートの要素もある作品だ。
──《HYPERSPACE》はどんな作品ですか?
10年前にドナム・エステートに植えた3811株のラベンダー畑が、2年ほど前に病害で壊滅的な被害を受けました。再生可能な有機農法に取り組んでいる私たちは農薬を使いたくなかったので、ラベンダーを撤去するという苦渋の決断をしました。それをきっかけに、私たちはこの畑をさらに素晴らしいものに変えようと考えたのです。
《HYPERSPACE》は、単なるアートやサウンド・インスタレーションを超えるもので、ホリスティックで感覚的なワイン体験を創造するというドナム・エステートのビジョンを象徴しています。この作品の特徴は、自然環境にシームレスに溶け込み、周囲の環境と絶えず相互作用を起こすようにデザインされたサイトスペシフィックな彫刻で構成されていることです。彫刻の反射面とその戦略的な配置から生まれるダイナミックなサウンドスケープは、風、温度、湿度など自然の条件によって変化していきます。《HYPERSPACE》は、ドナムを訪れた人々の感覚と想像力を無限に刺激し、周囲の景観やワインの味を引き立てるよう作られているのです。
45. ウー・ティエジュン
ウー・ティエジュンがこの1年で最高のアート体験だと考えるのは、サウスカロライナ州チャールストンにあるビープルのスタジオを訪れたことだという。彼はそれ以前からビープルの作品を集めていたが、スタジオ訪問によってその収集熱に拍車がかかったという。ウーが南京に設立した徳基美術館では、間もなくビープルの大規模な個展が開催される予定で、《S.2122》(2023、画像参照)も出品される。2021年にリニューアルオープンしたこの美術館では、《Vase de fleurs》(1904、画像参照)など、ウーが所蔵する数多くのピカソ作品も展示されている。
46. ソーニャ・ユー
ソーニャ・ユーは、ホン・ウンナムの《Lies》(2024)やフェリックス・ゴンザレス=トレスの《“Untitled” (Paris 1989)》(1989、画像参照)などを購入した。
──最近購入したゴンザレス=トレスの作品について教えてください。
どうしようもないロマンチストだと言われるかもしれませんが、私は長年、フェリックスの芸術に惚れ込んでいます。しかし、彼の最高レベルの作品、特にパズルのシリーズの出物を見つけるには、かなりの時間を要しました。何年も辛抱強く待ち続けて、ついにパリのアート・バーゼルでその機会が訪れ、デイヴィッド・ツヴィルナーから購入することができました。
コンパクトなサイズ(約20×25センチ)ながら、公と私(公共の空間にいる2人の人物の影)、二重性、喪失と不在、そして記憶という彼の仕事を特徴づける要素が全て揃っていることが、この作品を特別なものにしています。このイメージが醸し出す親密さと小ぶりな作品サイズによって、愛と喪失の間で生まれる緊張感が的確に表現されていると言えるでしょう。私のベッドの上に飾られているこの作品は、ベッドを共にする人とのロマンスを常に思い出させてくれるのです。
47. ライアン・ズーラー
ライアン・ズーラーが今年入手した作品の中には、ヴェネチア・ビエンナーレでデビューしたサム・スプラットの参加型作品《The Monument Game》や、ウルス・フィッシャーの《CHAOS #502》(画像参照)などがある。後者は、コーヒーポットやタコスの皮、チェス盤など、フィッシャーの「CHAOS」シリーズに登場する彫刻が空中に漂っているように見えるNFT作品だ。(翻訳:野澤朋代)
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